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〈本の紹介〉 NHK番組改変と政治介入

女性国際戦犯法廷をめぐって何が起きたか

 NHK番組改変事件は、いずれ、日本の戦後史のターニングポイントを画する事件として歴史に刻まれることになるかも知れない。まがりなりにも、言論機関たるものが、自民党の右翼勢力に膝を屈し、自ら、番組の放送前に、政治家たちに事前説明を行うという卑屈さ。現在の日本には、戦前のような治安維持法や報道を規制する戦時法があるわけではない。しかし、NHK自らが政治家にその制作番組の「検閲」を願い出るという前代未聞の恥ずべき醜態をさらしたのである。これが事件の真相なのだ。本書はこの事件の原告・VAWW−NETジャパン(バウネット)編によるもので、全編に事件の真相に迫ろうとする気迫がみなぎっている。

 本書を読むと放送前にNHK幹部が会った政治家は、安倍晋三、中川昭一氏だけではない。その面々の発言を紹介すると−自民党・下村博文議員「私のところにも放送前に、呼び出したわけではなくNHKの方から、このまま放送するのは問題がある思っているのでもう一度、編集を含めて検討したいと言ってきた」、古屋圭司議員「放送前に議連幹部の多くがNHK幹部に面会を求められ、番組について説明を受けた」「向こうから話がきていたのは事実」。

 中川氏を含めて、彼ら自民党国会議員に共通するのは「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(中川代表、安倍事務局長=当時)のメンバーという点。同議連の発足は97年。90年代のはじめに「慰安婦」被害者の金学順さんが名乗り出て、日本政府を相手に謝罪、補償を求める裁判を起こして以来、アジア各国の被害者が次々に名乗り出て裁判を起こしていった。その後、軍の関与を示す資料や「慰安婦」制度の指揮、命令系統を明らかにする資料が発見され、93年8月4日、日本政府は「慰安婦」問題に関する軍の関与と強制性を認める「河野官房長官談話」を発表した。そして、95年に村山首相談話が発表され、「慰安婦」問題は中学教科書7社全社に記述され、義務教育で教えていくことになったのだ。ところが、これが右翼勢力を大きく刺激し、「新しい歴史教科書をつくる会」など、「慰安婦」問題の記述削除の動きが活発になり、前述の議連なども発足した。

 一連の日本全体の右旋回の動きの中で起きたNHK番組改変事件を知るうえで本書は複眼的な視点を与えてくれる。(VAWW−NETジャパン編、世織書房、1000円+税、TEL 045・317・3176)(粉)

[朝鮮新報 2007.3.10]