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麻酔科医の独り言 眠っている間に手術の安全を保証

「一万回麻酔したら、一万回成功」

手術室で活躍する麻酔科の医師たち

 今年は暖かい冬となりましたが、病院と家とを行き来する朝と夜、たまに訪れる休日には寒さを感じます。みなさんはいかがお過ごしでしょうか。

 今日は麻酔科について説明してみようと思います。一般にはなじみにくいようで、「麻酔科って何?」と聞かれることも多く、簡単に説明するのは難しいものです。

 その役割を一言で表現するとすれば「安全の追求」だと思います。

 手術に際して行う麻酔は、治療ではありません。麻酔は、手術という侵襲から患者さんを守るために存在します。そのため麻酔には万全を持って臨まなければいけません。麻酔を専門にし、毎日麻酔をかけ、修練を積んで、ある程度の自信もついてきたこの頃ですが、いまだに麻酔を怖いと感じますし、麻酔中はやたらと緊張してしまいます。

 以前、上司の先生に厳しく言われた言葉があります。「麻酔科に失敗は許されない。一万回麻酔をしたら一万回成功しなければいけない」と。さもありなんと納得したものです。

患者の状態を常にモニターでチェック

 私の日々の仕事を説明していきます。

 手術前になると担当する患者さんが決まります。ここから私の仕事は始まります。患者さんの状態を把握するためにカルテをチェックし、実際に患者さんに会いに行きます。患者さんに麻酔の説明をしながら、どんな麻酔をすればいいのか、どんなことに注意すべきなのか、麻酔上の問題点を理解してもらいます。問題点があれば同僚や上司に相談し対策を考えておきます。手術の内容を考えながら、最悪の事態にも対処できるように、麻酔の予定を立てていきます。

 手術当日、私は朝早くから麻酔の準備をします。人工呼吸器、薬剤、点滴…を準備していきます。ひとつの間違いが大きな事故を起こすこともあり、一つ一つを入念に確認し準備します。ここまで来ると麻酔の仕事は、大半が終わりです。あとは決まった麻酔計画に沿って麻酔を行うだけです。

 患者さんに麻酔をかけるということは、薬によって強制的に睡眠をとらせ、痛みをなくし、体を動かなくすることです。そうすることで手術を施術することができ、患者さんも痛みを感じず、眠っている間に手術が終わるというわけです。その間、私は患者さんのそばで、患者さんの状態を監視しています。

 手術中、患者さんは痛みを感じていないわけではありません。痛みを感じると血圧も上がり、脈拍も速くなります。出血によって血圧が下がることもあります。体温の調節も大切です。私は手術の進行具合、画面に表示されるモニター、患者さんの状態を観察しながら、そのつど対処することになります。

 できるだけ「落ち着いた状態」を作ろうと努力しているのです。手術が終わると患者さんは目を覚まします。小さな努力の積み重ねが「心地よい眠り」を提供するわけです。

 後日、病室を訪れ「体調はいかがですか? 痛みはありませんか?」などと患者さんにたずねながら、麻酔の副作用、合併症が起こっていないか回診を行うのです。ここまでが一般的な私の日常です。

 さて、ここから私見を述べようと思います。麻酔科が患者さんと接する時間は短いものです。その短時間で信頼関係が築けるものでもありません。

 麻酔科は患者さんに「安全」を約束するため、知識、経験、技術を総動員し、見えない部分で患者さんをサポートしています。そして「心地よい眠り」を提供することで、「手術って楽なものですね。もし次回があればまた頼みますよ」などと思ってもらえれば幸です。

 日々、反省を繰り返しながらも、「質の高い麻酔」を目指しています。

 「いかがでしたか。よく眠れましたか?」と問いかけながら…。

 (宋よんす、30歳、大阪朝鮮高級学校を経て、島根医科大学卒。現在、大阪大学病院麻酔科勤務)

[朝鮮新報 2007.3.15]