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鉄条網に咲いたツルバラ 韓国女性8人のライフストーリー

生きるために選んだ闘う道

 「もし、あなたがいなかったら… 」

 私たちは「民主化」の果実を手にすることができただろうか。

 あの厳しい時代を生き抜いた南の女性8人のライフストーリー。彼女たちを記憶することは、歴史の中でかき消されようとする多くの女性労働者の名前を取り戻すこと−。

 「韓流ブーム」でぐっと親しみを感じるようになった南の社会。映画、音楽、料理などの文化が日本中を席巻し、キムチ、チヂミ、キムチ鍋が食卓の定番メニューになっている昨今だが、そのブームの陰でスポットライトを浴びることのないもうひとつの南の素顔がある。

 本書「鉄条網に咲いたツルバラ」は、軍事政権下の南のもっとも苦しかった時代、民主化のために闘った南の女性8人の物語である。家計を支えるために工場で働く彼女たちは、背伸びをしながら機械を操作し、男性の班長や組長の怒鳴り声に肝を冷やし、理不尽な会社の横暴に憤慨する。本書に登場する女性たちのなかには、東一紡織、九老同盟ストライキ、YH貿易など韓国労働運動史に記録された闘いの闘士たちも登場するが、闘いに目覚め、仲間たちとの団結を信じて闘った彼女たちは根っからの「闘士」ではなかった。

 悩み、苦しみ、そして立ち上がっていった彼女たちの苦闘は、軍事独裁との闘いであり、儒教文化の根強い女性差別との闘いであり、高度成長にひた走る資本家たちとの闘いだった。そのなかで彼女たちは「闘士」として力強く成長していったのだ。

 物語の最初に登場する東一紡織のリ・チョンガクさんの場合は、1978年の組合事務所で起こされた糞尿事件から始まる。そこでは女性を中心に活動する民主的な労組執行部をつぶすために、会社にそそのかされた男性社員が組合事務所に糞尿を撒き散らし、女性組合員にまで糞尿を浴びせて支部長選挙を妨害するという信じられない光景が繰り広げられた。東一紡織は72年の組合支部長選挙で御用組合を破り、南ではじめて女性支部長を選出した民主労組であった。しかし、会社、男性社員、そして警察から言語に尽くせぬ虐待や弾圧を受け続け、この「糞尿事件」の後、支部長であったリさんを含む124人が解雇され、民主労組はつぶされたのである。

 80年に登場した全斗煥軍事独裁政権は、民主労組を敵対視し、労働法の大改悪と暴力的な介入によって徹底的に弾圧した。本書で証言する元豊毛紡労組は82年に壊滅させられるまで、民主労組の最後の砦として闘いぬいたが、最後の支部長であったチョン・スンヨンさんは、あらんかぎりの暴行を受けたあげく、逮捕、拘留され、11カ月の獄中生活を終えて出所したときは、身体はボロボロであったと証言している。

 苛酷な独裁政権下で、南の若い女性たちがこれほどまでに果敢に闘い、勝ち抜けたのはなぜなのか。その根底には、劣悪な条件下でも人間の尊厳を希求してやまない熱い思いがあり、そのほとばしる思いを支えたキリスト教団体の闘いがあったことを忘れてはならない。多くの牧師もまた、この闘いで投獄され、弾圧を余儀なくされたのだ。

 女性作家パク・ミンナさんが彼女たちの思いに共感しつつ描き出すライフストーリーは、女性たちの苦悩を生き生きと伝え、南の社会の実相を描き出している。

 恐るべき「アカ攻撃」にさらされながら、政治弾圧の中で、労働運動の最前線に立ち続けた女性たち。投獄され、拷問を受けながら、不屈に闘いぬいた。彼女たちは人として生きるために闘う道を選ぶしかなかったのだ。しかし、ここに登場する8人の女性たちはそうやって生きた人生がどんなにか幸せだったかを語る。「怒り、闘い、勇気、それが生活のすべてであった」と、異口同音にふり返るのだ。まさに血で抗った彼女たちの闘いがあったからこそ、南の民主化の夜明けがもたらされた。

 本書を監修した大畑龍次氏は「(読者)は、南の有名な民衆歌謡『人は花より美しい』の言葉どおりに、8人の女性たちのライフストーリーのなかに本物の『美しさ』を発見するに違いない。もうひとつの韓国、本物の『美しさ』に出会ってみませんか」と呼びかけている。(パク・ミンナ著、大畑龍次監修・訳、2500円+税、同時代社、TEL 03・3261・3149)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2007.3.27]