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「保健だより」の連載を終えて 子どもの心と体のケア 考える、気づくきっかけに

児童心理のプロフェッショナルが必要

 私は養護教諭です。養護教諭とは保健室の先生です。「養護を掌る」その言葉通り、子どもたちを守り、心を育てる職務です。学校長が父親なら養護教諭は学校の母親みたいな存在でしょう。

 以前7年間の初級部担任職務に就きながら、ふと疑問に思うことが多々ありました。お腹が痛い、頭が痛いと訴える子どもたちの健康よりも、授業の進み具合やクラス全員を主に考えて指導してしまう自分。「あと、もうちょっと待ってね」と痛がる子どもは後回し。一人は全員に合わせて、という担任指導に限界を感じていました。これからは子ども一人ひとりと心と心で向き合いたく思い、大学で養護教諭免許を取得しました。

 母校へ帰ってきて、保健室運営に3年間携わってみましたが、実にさまざまな子どもたちに出会うことができました。普段、教室や部活動では見せない「弱さ」「だるさ」「ほのぼの」「笑顔」「疲れ」「泣き顔」「怒り」など素直な感情表現を見せてくれました。

 保護者からは「ソンセンニムの保健室は子どもたちの駆け込み寺みたいね」と言われることもありました。保健室はケガの手当だけではなく、子どもたちが息抜きをしたり、感情を吐き出したりという悩みを相談できる空間です。そして、自分の考えを整理して答えを自分自身で見つけ出す手伝いをするのが養護教諭なのです。また、保健室は心と体に関するあらゆる資料を網羅している健康センターです。

 そんな子どもたちにとってはすばらしい場所、保健室がこの朝鮮学校にもあることを全国のみなさんに知ってもらうために朝鮮新報で連載を始めさせていただきました。

 その効果はてきめんでした。周囲の方々に激励の言葉をもらったり、学校の児童生徒は「ソンセンニムの記事見てるよ。あれから自分の体の事もっと知りたくなってきた」という反応もあって、とてもうれしく思いました。とくに地方のウリハッキョ(学校)から連絡をいただくようになりました。

 四国初中では「栄養指導」の授業に呼ばれ、中級部では食品栄養表示の学習、初級部ではおやつの食べ方指導などを行いました。いつも口にしているお菓子を食べたらいけないというのではなく、自分でカロリー計算して上手に食べようと話しました。

 外部からの派遣授業が初体験だったのか子どもたちは目を輝かせていました。土地柄もあって、とても純粋で人懐っこい子どもたちばかりで、私の心も洗われたような気がしました。

 これからはおやつの食べすぎに注意するとか、体に優しいおやつを食べるようにするとかの意見が出ました。

 また、京都第一初級のオモニ会、青商会の方たちによる「ペウジャシリーズ」の第1弾として保健室の話をしてほしいと招かれたことがありました。100人近い保護者や教育者の方たちが集まりました。京都では保護者が子どもたちを守り育てようという意気込みが大変熱心でした。保健室は「箱もの」という観点から、そこにいる「人(養護教諭)」の存在が大事なのだということに気づいていただきました。その後ハッキョに保健室ができたとの知らせを受けたのです。つい先日も第2弾として「食育」のお話をしてきました。

 相変わらず勉強熱心な保護者たちでした。講習後には体によい食べ物は「あれよ、これよ」と建設的な井戸端会議が始まっていました。これなんですね。講習や派遣授業をして正すのではなく、考える、気づくキッカケになればよいと思います。

 私事ですが、昨年結婚し、いまは関西に移り、兵庫県の医学協会活動に参加させてもらうようになりました。驚きでした。すでに10年前から学校保健活動が実施されていたのです。それも医学協会の医師、看護師による各学校への担当看護師制度が組織化され、体系的に循環保健室活動を続けていました。そのほか、大阪、京都のウリハッキョでも月や週に1度の「養護教諭派遣」などが実施されていることを知りました。保護者や子どもたちにとっては安心できる心のより所だと思います。

 しかし、ハッキョ専属の養護教諭はいないに等しいのが現状であり、まだ保健室設備がないハッキョも多数あります。または設備が整っていても、担当教諭がいなかったり、物置状態になっている学校もあります。とても悲しいことです。ここに誰かいて、子どもたちの話を聞いてくれる「ハッキョの母親」がいたらどれだけ喜ぶことでしょう。

 今現在、関西の医療系留学同のメンバーが「ウリハッキョにも保健室を!」という研究と活動を行っています。彼らががんばっている姿を見て私も勇気がわいてきます。

 これからの未来、少子化、食問題、環境問題が複雑化していく中、ウリハッキョの子どもたちはそのほか、在日という特殊な生い立ちを抱えています。

 そんな心と体のケアを専門的に行える環境が、今のウリハッキョには必須だと思います。健康センター的役割をする保健室設備の導入や児童心理のプロフェッショナル・養護教諭の措置を切実な問題として考えてほしいと願っています。(広島朝鮮初中高級学校 元養護教諭 徐千夏)

[朝鮮新報 2007.3.31]