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歴史教材 「日韓交流の歴史」を読む

真摯で誠実な努力の積み重ね

 「美しい日本」を、などと言っているこの国の政府は、とてものこと品格があるとは言いがたく思われる。

 「韓流」という、やや軽くはあるが、それでも隣国との好き関わりを示す流れがありはするが、それを上回る「嫌韓流」の根深さや「反朝」の激しさは、近年、とみにひどくなるばかりである。

 首相の「従軍慰安婦」問題に対するわい曲、矮小化に端的に見える。首相に就任してからは、公的な主張を控えてはいるが、太平洋戦争は「自衛とアジア解放の正義の戦い」であり、「朝鮮は植民地ではなく領土」だとする靖国神社の主張に賛同する政治家でもある。今も公的にそれを否定していない。

 このような考えは、教育制度の改変、教科書問題、靖国神社問題、国旗、国歌法、一連の有事法制、憲法改訂などに連なり、「愛国心」で彩られているようである。

 隣国との関わりについては、相互間に歴史に対する謙虚で真しな研究に基づく、共通の認識が特段に必要であろうに。

 1995年11月、江藤総務庁長官の「併合時代、日本が韓国によいこともした」という「妄言」の修復のため、韓日外相会談で、政府の支援のもとに、両国で歴史認識を深め、確認するための共同研究を民間の学者レベルで進めることが(韓国外相の提言で)合意され、1997年7月、やっと始まったが、2000年5月、さしたる成果もなく終わった。

日本と朝鮮半島の共通の歴史認識で書かれた教科書

 日本側は、「侵略と植民地問題は避けようと言い続けた」(ソウル市立大学鄭在貞教授の言)。

 2001年10月、これもまた日本の歴史教科書のわい曲をめぐって、韓日首脳会談がソウルであり、歴史の共通認識のための共同研究が(金大中大統領の提言で)合意され、2002年3月、2年間かけて共同研究を進める韓日歴史共同研究委員会が発足し、2003年3月、共同研究報告書が政府に提出されて終了し、第2期共同研究委員会が2006年2月に発足し、2008年秋をめどに報告書をまとめる予定だという。

 いずれも両国間の意見の差が大きく、共通認識には程遠い感を否めない。

 ここに紹介する「日韓交流の歴史、先史から現代まで」は真に息の長い労作である。本書の「読者のみなさまへ」によれば、韓日両国の研究者や現場の教員たちが、1997年から2005年にかけて、15回にわたるシンポジウムを開催し、@その間、両国の高等学校の韓国史、日本史教科書の精読とその相互発表、そして書籍として出版 A両国で同一テーマを設定して教材を作成、その差異を確認 B時代別共通教材作成とその原稿の数次にわたる検討 C異なる時代の執筆者による再検討を経て D作成された原稿を編集委員会で、全体的に調整、このようにしてできたのが本書である。

 真に真しで誠実な努力の蓄積であり、歴史の共通認識のためには「10年間かかってもまだ十分な時間の長さではなかった」という感慨もさることながら、韓日の歴史共通認識のための「第一歩になれば」の思いは、十分以上に果たされているといえよう。多分第5歩にも第10歩にも達しているだろう。

 本書の構成は、第1章〜第8章が前近代の叙述で、約150ページ、第9章〜第12章が近現代で、約200ページとなっている。

 書名が「日韓交流の歴史」であるから、当然両国交流の歴史がベースとなって書き進められているが、章ごとの冒頭に「このころの日本」「このころの韓国」と、当該時代の両国の歴史を簡潔に述べていて、理解を深めるのに大変効果的である。

 「より深く理解するために」の項(約50ページ)は、「参考文献」の項(25ページ)と関連づけて読めば、言葉通り「より深く理解」できる親切なガイドである。

 一例のみ挙げれば、「日本では倭寇の実態や海賊活動の意味について」の研究が深まるにつれ、その成果を「恣意的に」悪用するグループがいるのであるが、「こうした点については日韓相互の」研究、「交流の中で、丁寧に検証されていく必要があろう」と提示している(370ページ)。より理解を深めたい読者は、この提示の意味を当該章の参考文献を通じて確認できよう。

 少しだが気になる点もある。2〜3例のみ挙げる。

 31ページ10行〜13行「高句麗は…その後、百済の侵略を受けて…」の「侵略」、同ページ下から3行目、「新羅に侵入した倭を撃退して…」の「侵入」。

 274ページ末行、「韓国光復軍隊員に朝鮮に侵入する訓練を…」の「侵入」。本書の韓国語版によれば、「徴燈」とあるので、これは直訳すれば「浸透」であるが、字義としては「潜入」ぐらいが妥当か。

 276ページ6行目、「ポツダム宣言を受託して…」の「受託」は「受諾」の誤植?

 283ページ下から4行目、「合理的な法案」の「法案」は、韓国語版によれば「号照」なので、これは「方案」の誤植?

 史実の措定でやや気にかかる点もあるが、この短文の中では書くゆとりがない。別に機会があれば述べる。

 何はともあれこの本は、誠実な小グループが10年の歳月をかけ、「韓日の歴史共通認識」を目指して成就した金字塔であると、筆者は受け止めた。こういった人々こそ、「美しい国」を、と発言する資格があろうと敬意を表したい。(歴史学者 朴鐘鳴)

[朝鮮新報 2007.4.17]