〈本の紹介〉 岡部伊都子作品選・美と巡礼 女人の京 |
歴史の中のまぶしい女性たち 一人の女性として、日本の侵略戦争の原罪を背負い、そこから決して目を背けず50年あまり執筆し、発言し続けてきた文筆家・岡部伊都子さんの「作品選 美と巡礼」シリーズ(全5巻)の中の一冊。 朝鮮三国の文化が花開いた飛鳥時代、大化の改新、近江遷都、帝位をめぐって血なまぐさい争いが繰り広げられた壬申の乱など歴史の大きなうねりをひもときながら、岡部さんは、歴史の中で翻弄される女性たちの姿に光を当てた。 その中で、朝鮮渡来の女性たちのまぶしいばかりの存在がいきいきと描かれている。 日本最初の尼僧となる善信尼。584年、百済から弥勒の石像と仏像が来た時、最高権力者・蘇我馬子は、高句麗の恵便を師にして、善信尼を出家させた。岡部さんによれば、この最初の尼は、明治開国によって、米国に留学した少女とおなじように、もっともモダンな、インテリ中のインテリであった、という。 同じく渡来の2人の少女とともに出家した3人の尼たちは、時代を切り開く先覚者や啓蒙指導者として手厚く崇拝され、守られたという。その後、善信尼たちは百済に渡り、戒を学び、3年後に帰国し、向原寺(奈良県)に尼寺を開創した。ほかに新羅、高句麗、漢などの出身者が続々と尼僧として修行の道に入った。それは「相当の教育を受けていて、やはり文化的センスの豊かな出身でなければ無理であったのだろう」と岡部さんは書く。 さらに、感動的な歴史の秘話がある。聖徳太子が死去した時、妃の橘大郎女の願いによって作られた天寿国繍帳。1300年のときを経ても、植物染料ゆえの深み、また色の取り合わせの複雑な魅力、飛鳥文化の華やぎを現代に伝えてくれる。この繍帳に縫いこまれていたという400字の銘文の末尾には、製作責任者の名が記されている。そこには、「画者、東漢末賢、高麗加西溢、漢奴加己利、令者、椋部秦久麻」とある。この図に現われた風俗からは、当時の朝鮮風な生活が想像されると岡部さんは指摘する。まさに朝鮮のすぐれた技術者たちによって監督され、下絵が描かれ采女たちの手によって作られた繍帳なのだ。 岡部さんの作品には、歴史を題材にしたものも多い。本書には、時代がどんなに移り変わっても、変わることのない人間の生の営みの哀しさが浮き彫りにされている。 岡部さんの書くことの原点である社会の矛盾、性差別、貧困と戦争への弾劾、そして自身の加害の罪…。歴史へのアプローチもまた、その厳しい生き方とまなざしが際立つ。(藤原書店、2400円+税、TEL 03・5272・0301)(粉) [朝鮮新報 2007.4.17] |