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〈おはなしのチュモニ〉 パッパッ パガヂ

 昔、あるところに、おじいさんとおばあさんが暮していたんだけど、ある日のこと、夜中に泥棒に入られたんだって。泥棒がそろりそろり家の中に入ってきて、あちこちうかがいながら、縁側にあがってきたんだ。ところが床が古くてみしみし音がするのさ。部屋の中で寝ていたおばあさんがその物音を聞きつけて目がさめたんだ。そうして横に寝ているおじいさんを起こしたんだって。

 「これ、おじいさん、外でなんか音がしているのをみると、泥棒が入ったみたいだよ」

 縁側をはっていた泥棒がこの話し声を聞いて、いっぺんに胸がドキンとなったんだよ。それで見つからないようにと、その場でぺちゃっと平べったく伏して息を殺してじっとしていたんだ。ところがさ、部屋の中ではおじいさんが目をさましていうことには、

 「泥棒ってなにが泥棒だ。縁側の下でねずみどもが騒いどるんだろが」

 というんだよ。それでもおばあさんは

 「どうもねずみの鳴き声ではなさそうだったけど?」

 と、さかんにいぶかしがるんだな。泥棒はおじいさんやおばあさんの気持ちが落ち着くようにと、「チュッチュッ、チュッチュッ」とねずみの声を真似たんだ。するとおじいさんが

 「そら見ろ。あれがねずみの鳴き声でなくてなんだね」

 というのだけれど、おばあさんはどうも疑い深くて、

 「おかしいね。ねずみの鳴き声にしてはあまりにも大きいよ」だって。「だったら、猫の鳴き声だろう」

 「猫の鳴き声でもなさそうだよ。そういわずに早く出てみなさいよ」

 と、せかせるんだ。泥棒がじっと聞いていると、そうしていては身動きが取れずじまいで、見つかってしまうからさ、それであわてて「ニャオ、ニャオ」って猫の鳴き声を出したんだ。

 「どうだ、間違いなく猫の鳴き声じゃないか?」

 おじいさんはうまい具合にごまかせるんだが、おばあさんは今度もまただまされないんだな。

 「猫の声にしてはえらく太いよ」

 「猫の声より太ければ、犬のほえ声だろう」

 泥棒は少しでも早くおじいさんとあばあさんが安心して眠れるようにと、今度は「ワンワン」と犬の鳴き声を出したんだって。

 「ほら、見てごらん。犬の鳴き声に間違いないったら」

 「もちろんそうだけれど、わたしが犬の鳴き声がわからないとでもいうの?」
「だったら、子牛の鳴き声だろうに」

 泥棒はあわてて「モウモウ」と子牛の鳴き声を出したんだ。

 「ほら、ごらんよ。子牛の鳴き声じゃないか?」

 「いいえ、子牛の声とも違いますよ」

 「そうかな? じゃ、象の鳴き声かな?」

 おじいさんは眠たくてしかたないで、めんどくさくなって適当にでまかせを言ったのだが、ほんとうのところ泥棒は背中に冷や汗がたらたら流れるしまつなのさ。今度は象の鳴き声を出さねばならない羽目になってしまったが、いったい象の鳴き声を一度なりと聞いたためしがないじゃない。

 「やれやれ、一か八かだ。えらいことに象の奴のために見つかってしまう羽目になったかな」

 泥棒はあわてふためいて、象の鳴き声を出すというのが、まったくのところ、とんでもない声をだしたんだな。

 「ゾゾ、ウウ、ゾゾ、ウウ…」

 といったところが、部屋の中では大騒ぎになったんだからね。

 「まあまあ! あれはなんの鳴き声なんだろうね? あんな鳴き声は、生まれてはじめて聞いたよ。もし、おじいさん。あれが象の鳴き声ですの?」

 ところがおじいさんだって象の鳴き声を聞いたためしがあるわけじゃなし。

 「象の鳴き声がどうか分かるわけがなかろう。『ゾゾ』と鳴いて、『ウウ』と鳴くの見ると、象はあんな鳴き方をするのかな」

 「まあ、おじいさんたら。この村に象でもいて、そういうのかい。気をしっかり持って早く出て見なさいよ」

 「わかったよ。わしが出てみるよ」

 その時になってやっとおじいさんがごそごそと寝床から出てくるんだ。だから泥棒はたまげて逃げ出すんだけれど、あまりにも驚いてどこへ逃げたかというと、台所へ入り込んでしまったのさ。台所にはいってみると隠れるところがない。あちこちうろうろしていると、大きな水がめがみえたんだ。急ぐあまり、そのかめの中に入りこんだのだ。入りはしたんだが、顔を隠すわけにはいかない。水の中に顔まで浸けてしまうと、息がつまって死んでしまうからな。それで顔だけ水の上にすっと突き出して座っていたところ、ちょうどかめの中にパガヂ(瓢箪の実の内部をくりぬいて半分に割ったもの)が1つぷかぷか浮いているんだ。これさいわいとそのパガヂを引きかぶったんだわ。

 おじいさんは縁側に出て、あちこち見廻しても何もないので、台所へ入っていったんだ。

 台所の隅にあるかめをのぞいてみると、パガヂがぽわんと水の上に浮いているんだ。おじいさんがそれをぽんぽんたたきながら、

 「こりゃ何だ? パガヂみたいだし、そうでもないみたいだし」

 というので、泥棒は心がひやひやして急いでまくしたてたのだが、

 「パッパッ、パガッパガッ。パッパッ、パガッパガッ…」

 といったんだわ。するとおじいさんが言うことには、

 「うん、間違いなくパガヂだわい」

 といいながら部屋に入っていったんだってさ。

 訳・韓丘庸(児童文学評論家)

 作者紹介:ソ・ジョンオ(1955〜)−慶北生まれ、大邱教育大学卒。創作民話、再話を手掛ける。作品に「ひきがえるの新郎」「虎をつかまえた屋根瓦」など。

−〈出典〉

 「昔話の入っている袋」シリーズ第6巻(1996年、ポリ社刊)に収録。

朝鮮語 翻訳

[朝鮮新報 2007.4.18]