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〈本の紹介〉 韓国実学思想研究4 科学技術編 延世大学国学研究院編

南科学史の集大成

 16世紀以降、西洋における力学を中心とする近代科学の形成とその後の社会変革は「科学革命」と呼ばれているが、東洋ではそのような劇的変化は起こらなかった。「ニーダム問題」といわれるその理由の追究と、では当時にはどのような特徴的展開があったのかという問題は朝鮮科学史研究においても重要な課題であった。後者に関しては「実学」の形成が挙げられ、そこには近代科学的要素が見られるとされてきたが、このような評価は西洋近代科学を絶対視する先入観と近代化を是とする価値観に基づいている。そこで、近年、その反省から実学の再検討と新しい視点による朝鮮後期科学史の記述が試みられているが、本書「韓国実学思想研究4・科学技術篇」は、まさに、それを基本課題とする論文集である。

 本書には具萬玉「総論:朝鮮後期科学技術史研究と実学」以下、実学的自然認識の展開に関する論稿4編と、暦法、天文器具、農業技術、医学、地理学など専門科学知識の様相を取り扱った論稿5編から構成されている。現在、該当分野でもっとも精力的に研究を行っている少壮学者たちによる詳細な分析は、現時点における韓国科学史学界の成果を集大成したもので、今後の研究の土台となるだろう。

 現在の実学研究は、植民地時代の民族的精神の鼓吹を目指した「朝鮮学」運動に始まる。その中心人物の一人は延世大学校の前身である延禧専門学校の教授で丁若繧フ研究を精力的に行っていた鄭寅普であり、その薫陶を受け「朝鮮科学史」を執筆した洪以燮は当時の学生であった。その伝統は解放後にも受け継がれ、延世大学校は実学研究に力を注いできたが、実学の現在的意味を再確認し今後の実学を展望するという目的から全4巻からなる叢書が企画された。ただし、本書に限れば刊行する側は実学の枠内で朝鮮後期の科学技術の記述を目指したのであるが、執筆者たちの多くは前述のような問題意識から出発して、いうならば朝鮮後期科学技術のなかに実学的要素があればそれを評価するという立場を取っている。

 その典型が林宗台の論稿「地球、常識、中華主義」である。地球を「平面」と考えていた当時の知識人たちにとって、西洋科学知識としての地球説の受容は、自然観の変革とともに中国中心の世界観を地理学によって克服する契機となったとされてきた。その代表的人物が実学者・李澀と洪大容であるが、林宗台は彼らの地球説、地転説に中華主義への批判と近代的志向を見ようとするのは現代的誤読の産物であり、彼らの著作を当時の脈絡において把握すべきと主張する。これに対して具萬玉は「総論」で、その主張に留意を示し、朱子学が支配的な当時においてその枠から脱皮した実学者たちの思想的変革の要因こそを追究しなければならないとする。ほかの論稿も積極的に持論を展開しており、本書自体が一つの「論争の場」となっている。まさに、この点こそ本書の魅力であり、今後の研究の出発点とする所以である。(図書出版慧眼、問い合わせ=コリアブックセンター、TEL 03・3813・9725)(任正爀、朝鮮大学校理工学部教授)

[朝鮮新報 2007.4.21]