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〈本の紹介〉 竹島=独島論争 −歴史資料から考える−

精緻で丹念な歴史考証

 マスゲーム「アリラン」の演目の中に、白いチマ・チョゴリ姿の女性たちがグラウンドいっぱいに群舞で描く朝鮮地図がある。そこには朝鮮半島と済州島、朝鮮東海(日本海)に浮かぶ鬱陵島と、2人の舞い手が演じる豆粒のように小さな独島(「竹島」)も描かれている。ちなみに白地に青の朝鮮全図を描いた「統一旗」も同じ図柄である。つまり、歴史的にも国際法的にも朝鮮の独島領有権には疑いの余地もない、というのが北と南共通の立場である。

 北南朝鮮と日本との間で「火種」となってくすぶってきた独島領有権問題(「竹島問題」)が再燃したのは、2005年2月に島根県が「竹島の日を定める条例」なるものを制定したときからである。それは、100年前の1905年1月、「日本海海戦」を間近にしていた日本が、軍事的に重要な意味合いをもっていた独島とその周辺水域を「内務省公示」で強引に島根県に「編入」した暴挙を彷彿させるものであった。

 本書は、代表的な独島研究家2人が共同で、日本政府が主張する「竹島は日本の固有の領土」論(外務省ホームページ)を史料にもとづいて批判的に検証したものである。
 その特徴は、日本国内で独島問題の歴史的背景が一般に知られておらず、「日本の固有領土」という意識が密かに浸透している状況に鑑み、偏狭な「民族意識」や「感情的な対応」にとらわれず、丹念に史料を読み込み、精緻な歴史考証を行い、日本が唱える「固有領土論」に反論している点にある。「歴史資料から考える」という、本書の副題の意味するところである。

 朝・日の史料を照らし合わせての歴史検証、日本の明治政府が「独島は日本の版図外」と明らかにした1877(明治10)年の「太政官指令」文書と付属「磯竹島略図」の真実、サンフランシスコ講和条約で独島の記述が取り除かれた経緯を示す1952年10月の米大使館秘密書簡の解説など、じつに興味は尽きない。

 とはいえ、「論争」の渦中にある歴史問題であるだけに、まずは巻末の関連年表を眺めたうえで、「第W章竹島=独島はどんな島」から入って独島の実測データと紀行文を頭の中にインプットするのも理解を深めるための一手である(こだわりのある方は、本書と同時期に岩波書店から出版された内藤正中・金柄烈共著「史的検証−竹島・独島」も併せて読んでほしい)。

 松江の地で山陰の歴史と風土、朝・日関係史などを長く研究してきた著者の一人、内藤正中・島根大名誉教授の一言が重い。「日本の竹島領有100年は、韓国にとっては日帝支配の植民化がはじまる100年であり、日本による独島領有はその第一歩ということになる」(本書第T章「日本の固有領土論について」)。

 おりしもこの5月上旬、モナコで開かれている国際水路機関(IHO)総会でも、独島問題と関係の深い「朝鮮東海(East Sea of Corea)」vs「日本海(Sea of Japan)」の熱い呼称論争が繰り広げられている。

 いずれにせよ、歴史的な観点と客観的な史料にもとづいて、歴史の理がいずれの側にあるのかを判断するのは読者自身である。(内藤正中・朴炳渉著、新幹社、2625円+税)(金明守 総連中央本部参事)

[朝鮮新報 2007.5.15]