〈みんなの健康Q&A〉 パニック障害(上)−病状と原因 |
Q:今回はパニック障害について教えてください。 A:「原稿の締め切りを1週間まちがえて、パニックになってしまった…」。どこかで聴いたようなフレーズですが、みなさんも、これまでの人生の中で、一度や二度はパニックを経験したことはあるでしょう。実は、日常よく使われるパニックと、今回ご紹介するパニック障害とは、実は似て非なるものなのです。最近になって、ようやくこの病名が一般によく知られるようになりましたが。 Q:パニック障害とはいったい、どのような病気なのでしょうか。 A:パニック障害とは、急激に発症するめまいや激しい動悸、呼吸困難といった身体的な症状とともに、いいようのない不安に襲われる「パニック発作」をくり返し起こす病気のことです。しかし、パニック発作が起こった場合、激しい症状が身体に現れているにもかかわらず、病院で検査を受けても、心電図や血圧等で異常はみつかりません。このような状態をパニック障害といいます。 Q:発作にはどのようなものがあるのですか? A:パニック発作の症状は、心臓発作によく似ていて、呼吸困難、動悸、胸の圧迫感、汗が激しく出たり、身体が震えたりの症状が急に出てきます。大半の人は経験したことがないほどの恐怖体験から「このまま死んでしまうのではないか?」と強く感じ、不安を抱きます。不安が不安を呼ぶ悪循環に陥り、いてもたってもいられなくなり、このため救急車を呼んで、救急病院にかかることが多いのも特徴で、これが典型的なパニック発作です。パニック発作ではこれらの症状が何の前ぶれもなく突然起こり、多くの場合10分以内でピークに達し、大抵は30分以内でおさまります。 Q:恐ろしいですね…。 A:でも、実は生命の危険は全くありません。 Q:時間や場所なども発作と関係するのですか? A:電車やバスの中、人混みの中、家に一人きりでいる時など、いつも決まった場所でパニック発作が起こりやすい人もいます。これを何回か起こしていると、例えば電車に乗るのが怖いということが記憶に残ってしまい、「また電車に乗ったら発作を起こすんじゃないか?」と電車に乗る前に恐怖感をおぼえるようになってしまいます。これを「予期不安」と呼んでいます。 パニック障害には、このように場所に関係したタイプと、何のきっかけもなく突然発作が起こるタイプのふたつがあります。いずれにしても生命に危険がないという点では同じです。 Q:発作の原因は何ですか? A:最近になり、ようやく脳の中のメカニズムが徐々に解明されつつあります。昔は「気の持ちよう」とか「性格の問題」などと誤解され、病気に対する理解が乏しい時代がありました。残念ながら、パニック障害の原因は今ひとつ、はっきりとは解明されていませんが、最近では、脳内の神経伝達物質が関係していることが解ってきました。脳には、脳内の神経間で情報交換したり、脳からの命令を、神経を介し身体に伝えるための神経伝達物質があるのですが、パニック障害では、この神経伝達物質の中の「セロトニン」と「ノルアドレナリン」のバランスが乱れることにより発症するのではないか、と考えられています。 また最近では、神経解剖学的仮説として、放射性同位元素を用いたPET画像検査で、脳の一部位である「扁桃体」「視床」「海馬」を中心とした異常興奮がパニック発作に関連しているのではないか、とも言われています。このようにパニック発作の原因が脳内の変化であるため、内科等で心臓や呼吸器の検査をしても異常は見つからないのです。 Q:ストレスなどの影響もありますか? A:もちろん、ストレスなどの心因的な原因があって、パニック障害になるケースもありますが、性格や環境、ストレスとパニック障害との関連は、まだ解っていません。次回に詳しく説明しますが、パニック障害の治療では、薬によってこの乱れた脳内神経伝達物質「セロトニン・ノルアドレナリン」のバランスを調整する方法が主になっています。また、この病気には現代病の側面もあり、患者数はこれからさらに増えるのではないかとも考えられています。なぜならばパニック障害は先進諸国、とくに日本や米国で患者数が多いことから、この病気が「現代社会のストレスに関係があるのではないか」と言われているからです。 Q:適切な治療を受けるためには受診しなくてはならないということですね。 A:パニック障害は病院で適切な治療を受ければ必ず治る病気ですが、多くの人がパニック障害という病気を知らず、精神科、心療内科へ相談に行かないことも多いようです。また、心臓や呼吸の不調を訴えて病院へ行っても、検査結果に異常が出ないために、医療従事者の中でさえ理解が不十分であったり、時に疾患として認めない医師も存在し、適切な説明や治療を受けられずに、本来の治療に乗れず、病気がなかなか改善しないこともあるようです。しかし、パニック障害を放置していると慢性化することがあり、場合によってはこれが原因となってうつ病が発症してしまうことも珍しくありません。 (駒沢メンタルクリニック 李一奉院長、東京都世田谷区駒沢2−6−16、TEL 03・3414・8198、http://komazawa246.com/) [朝鮮新報 2007.6.14] |