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若きアーティストたち(48)

画家 韓繍香さん

「絵を描くときは吐きそうなぐらい苦しむこともある。できあがって依頼者に渡したときの達成感があるから続けられる」

 昨年末、はじめての著書「花水彩手習い帖」(エムディエヌコーポレーション、定価=1575円)を出版した。アネモネ、ひまわり、コスモス、シクラメン…。四季折々の16種類の花の絵を通して、水彩の基礎テクニックをやさしく解説した入門書だ。

 韓繍香さん(33)は今年、画家を志して11年目を迎えた。その間、いろいろと思い悩んだこともある。「やめたいな」「向いていないのかな」「才能ないんじゃないかな」「うまい人はいっぱいいるし」「遊びたいな」という思いが、満ち潮のように押し寄せて来たことも一度や二度ではない。そのつど、誰かが言った「10年やったら結果が出る」という言葉を胸に、画家という仕事と向き合ってきた。

 そして、不思議なことに、くじけそうになった時、絶妙なタイミングで仕事を頼まれた。「今となってはもう、これしかないと思えるようになった。気持ちがゆれている時は、パン屋になろうか、針師になろうかなどいろいろ考えたけど」。

 韓さんが美術の頭角を現しはじめたのは、初級部2年生の時。「農楽」という絵が朝銀のポスターに選ばれた。絵は円になって踊る農楽隊を真上から描いたもの。「みんな寝ているような絵だったんですけどね」と照れくさそうに笑う。在日朝鮮学生美術展には毎回出品、中3の時、金賞に選ばれた。

集英社文庫「おはなしの日」の表紙は韓さんが描いたもの

 「絵を描き続けたい、良い絵を…」という強い望みから、武蔵野美術大学卒業後、一度は就職するものの、仕事を蹴って山小屋へ。尾瀬で8年、アルバイトをしながら自然の中で絵を描いた。その後は、日本最大規模のテレビスタジオである緑山スタジオ(神奈川県横浜市)でドラマの美術を担当したり、東京ディズニーシーのペイントや、ショップの壁画、メガネメーカー主催のイベントでのライブペイントほか、小説の装丁画など幅広く手掛けてきた。

 韓さんの主な作品は水彩で描かれている。「水彩は、色を重ねることによって変化し、深みが出る。それに、紙が呼吸している感じというか、生きた感じがそのまま残る。加えて画材がリーズナブルなので、やり直しも可能」というのが魅力らしい。

 経済的な面だけを見ると、決して「十分」ではないと言う。「勤め人と比較すると安定していないけど、それでも絵を描き、社会に出すことによって収入を得ている。ようやく画家の入り口に立ったような気分になる。今まで『なる、なる』と言ってはいても、子どもの夢のような感じだったから。もちろん、死ぬまで「完全」な形には成りえないんだろうけど」。

アートバザールで売れたオリジナルの作品「無題」

 絵のモチーフは「女性」である。自分とは似ていないが、自画像のような、内面的な画風が特徴だ。でも、今はもっと前向きな作品を描きたいと思っている。同じく画家である夫との間に一昨年子どもが生まれて、最近、子どもの絵も描くようになった。

 「絵は自分探しの旅のよう。結婚前はいつも苦しくて。結婚して、夫がいて、子どもがいることが生きる励みになっている。毎日が喜びに満ちている。自分の子どもだけではなく、すべての子どもたちのために、もっと大きなことがしたい」

 息子は、誰にも平等な心をもつようにと、「由等」(ユラ)と名づけられた。韓さんは今、将来的には絵本作家になりたいと考えている。(金潤順記者)

※1974年生まれ。西東京朝鮮第2初中級学校、日本デザイナー学院グラフィックデザイン科(中退)、武蔵野美術大学短期大学部グラフィックデザイン科卒。2000年イルフ童第1回武井武雄記念童画コンテスト、2001年「イラストレーション」誌「ザ・チョイス!」入選。女性をモチーフにした作品を発表し続けている。URL=http://soohyang.biz/

[朝鮮新報 2007.6.18]