植民地支配と新聞の責任
表題を見て勘違いしないでほしい。内容は、「半島の皇国臣民はかくも雄雄しく聖戦を戦い抜いている。内地国民も決意を固めよ」と戦意昂揚をあおり、朝鮮総督支配への迎合一色である。現在に至るまで謝罪も賠償もしていない強制連行や「従軍慰安婦」など自国の戦争犯罪についてはもちろん一片の言及すらない。
本書は日本帝国主義の植民地支配下の朝鮮の姿を記録して、敗戦2カ月前、45年6月に出版された朝日新聞社の商魂たくましさが込められた原本の復刻版である。
この年は、3月に東京大空襲、4月米軍の沖縄上陸、ムッソリーニ銃殺、ヒトラー自殺、そして8月6日広島、9日長崎への原爆投下。ついに昭和天皇の玉音放送でポツダム宣言受諾・連合国への降伏となった。そんな慌しいなかでこの本が刊行されたのだ。
現在、朝日新聞紙上では、新聞が侵略戦争と植民地支配を行ううえでいかに加担していったのかという検証記事を連載中である。しかし、それだけでは新聞の戦争責任を明確にしたとはいえないだろう。
新聞社がいかに植民地支配を正当化したのか、記者はそのルーティーンをいかに懸命にこなしたのか。言論統制下とはいえ、軍部の前に跪き、アジアや朝鮮の民衆を塗炭の苦しみに追いやった罪の認識を記者一人一人が自覚しているのか。
幸い、本書は原本の編集者だった父の後を継いで、朝日新聞記者となり、現在はジャーナリストとして活動する宮田浩人氏の手で復刻された。父の仕事への痛切な反省と朝鮮報道をめぐる現在の新聞の大衆迎合ぶりへの厳しい批判が、子息を62年ぶりの復刻版刊行へと駆り立てたもの。その労を称えたい。(編集、解説 宮田浩人、新幹社、4500円+税)(粉)
[朝鮮新報 2007.7.9]