〈みんなの健康Q&A〉 メタボリックシンドローム(上)−診断基準 |
Q:「メタボ、メタボ」と友人が騒いでいますが、近頃テレビのニュースや健康番組などでもよく出てきます。 A:正しくはメタボリックシンドローム(metabolic syndrome、以下MSと略す)といって、一言で日本語に訳すのは難しいのですが、別名「内臓脂肪症候群」とも呼ばれています。これは肥満とりわけ内臓脂肪蓄積とインスリン抵抗性という共通の病態を基盤として、高血圧、コレステロールや中性脂肪値の異常、それにまた血糖値の上昇つまり糖尿病が重複し、粥状動脈硬化症を生じやすくなり、その結果狭心症、心筋梗塞や脳梗塞の発症危険度が増大する疾患と定義されています。 Q:聞いただけでもすごく恐ろしげな疾患ですね…。 A:実は、医療現場ではもう何年も前から知られているのですよ。ちょっと難解な用語が並びましたが、説明しながら話をすすめましょう。 Q:高血圧や糖尿病などはよく生活習慣病といわれていますが、MSにおいてはどういう意味合いがあるのですか。 A:そういった生活習慣病をもっていると、心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化性疾患にかかりやすいことはみなさんよくご存知のことと思います。動脈硬化というのは体中に栄養を運ぶ動脈が細くなったり、つまったりすることです。生活習慣と密接に関連する高血圧や糖尿病、肥満、喫煙などは動脈硬化を引き起こす危険因子と呼ばれています。こういった危険因子が重なると、動脈硬化を生じる確率がさらにいっそう高くなることは容易に理解できます。 Q:一人の人に同時に複数の危険因子が存在しているという状況ですね。 A:その通りです。そのような概念は1980年代後半からあちこちの研究者によって提唱されるようになりました。そんな中でも、MSにおいては認められる危険因子は同じでも、それらはある共通した病態から生じていて、お互いにきわめて相関していると考えられています。長年の研究によって、内臓脂肪蓄積を主とする肥満およびインスリン抵抗性などが基礎にあるということがわかってきました。インスリン抵抗性とは、血糖値を下げる働きのあるインスリンが血中に存在するにもかかわらず、期待されるほどのインスリン作用が発揮されない病態をいいます。そして、これらの病態をもたらす背景には、過食、運動不足といった生活習慣の乱れが大きく関与しているのです。 Q:MSと診断するのには何か基準があるのですか。 A:実は世界的にはまだ完全に統一されていないのですが、ここでは2005年に日本で示された診断基準に基づいてお話しましょう。まず必須項目として中心性肥満、またの名を腹部肥満、りんご型肥満といいますが、へそ周りが男性は85センチ以上、女性は90センチ以上をいいます。 Q:えっー、女性より男性のほうが基準値が厳しいですね。 A:女性の場合は皮下脂肪が多いのでどうしてもへそ周りが大きくなりがちです。ところが、MSにおいてはおなかの中の内臓の周りにつく内臓脂肪が問題なのです。だから、女性では皮下脂肪分は上乗せしてゆるい基準にしてあるのです。 Q:おなかの周りだと誰でも簡単に測れて、身近な話題になりますね。それにしてもなかなかきつい数字です。 A:加えて空腹時血糖が110以上、中性脂肪150以上および/または善玉と呼ばれるHDLコレステロール40以下、血圧130/85以上、これらのうち2つ以上が重なった場合にMSと診断されます。 Q:簡単にいえば、おなかが出ていて、血液検査で糖尿病や脂質異常がみられ、それに高血圧があればMSの仲間入りというわけですね。 A:肥満については身長や体型による個人差が大きいので、身長と体重から計算する体重指数もよく使われます。これは体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったもので、25以上だと肥満と判定されます。 Q:MSの頻度はどのくらいですか。 A:調査報告によって用いた診断基準が微妙に異なるので一概には言えませんが、日本では男性は25〜8%、女性は22〜2%です。この頻度は、ほかのアジア地域と大きくは変わりがありません。ヨーロッパ白人のデータは日本と大差ないのですが、米国白人の頻度は、最近の肥満度の急速な増加傾向を反映してか高かったと報告されています。2004年に在日同胞を対象にしたアンケート調査を行ったのですが、20歳以上の男性では11.5%の頻度でした。たぶん日本人の統計とほぼ似た数値と思われます。また、どちらも40代から急に頻度が増加するのが特徴です。 Q:子どもにもMSがあると聞きましたが。 A:最近、子どものころからの予防が大切ということで、6〜15歳の子どもにもMSの基準ができました。小学生は肥満の基準が「へそ周りが75センチ以上」か「へそ周り÷身長=0.5以上」で、あとは成人と同じように血糖、脂質、血圧異常のうち2つ以上あれば「小児MS」と呼びます。ただし、小児の場合はこれらの基準値を少しゆるく設定しています。ある統計調査によれば、肥満児の5〜20%、一般の子の0.5〜3%が小児MSと診断されたそうです。 (金秀樹院長、医協東日本本部会長、あさひ病院内科、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800) [朝鮮新報 2007.8.9] |