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〈みんなの健康Q&A〉 メタボリックシンドローム(下)−予防と対策

 Q:内臓脂肪の蓄積がどうしてメタボリックシンドローム(MS)、ひいては動脈硬化を引き起こすのですか。

 A:大変複雑で簡単には説明できませんが、現在最も注目され重視されているのは、脂肪組織から分泌されるアディポサイトカインという内分泌因子です。

 Q:初めて耳にする言葉ですが。

 A:これは一種の生理活性物質でたくさんの種類があり、生体の恒常性の維持に関わっているものです。肥満や内臓脂肪蓄積によってその産生、分泌が過剰あるいは過少となり、そのバランスの破綻がMSの発症と進展に大きな影響を及ぼすことがわかっています。具体的にいえば、インスリン抵抗性、高血糖、脂質異常、高血圧、血液凝固異常、炎症、血管障害などをもたらします。とりわけ、インスリン抵抗性はMSの基本的病態であり、糖・脂質代謝異常や高血圧による動脈硬化の危険を増すのみならず、インスリン抵抗性自体が動脈硬化を促進することがよく知られています。

 Q:MSによって将来狭心症、心筋梗塞や脳卒中になる危険度はどの程度ですか。

 A:世界的な疫学的研究によると虚血性心疾患の発症や心血管疾患による死亡の危険が2〜3倍高くなるといわれています。日本においても例外ではなく、虚血性心疾患のみならず、脳卒中や慢性腎疾患の危険度も男女とも2倍以上となることが多数報告されています。

 Q:現代では、心臓病や脳卒中を予防するうえで、肥満、とくに腹部肥満の是正がこれまで以上に重視されるようになったといえますね。

 A:MSは生活習慣病のひとつであることは確かですが、一方では、同じ環境下にあってもMSを発症しやすい人とそうでない人がいることから、遺伝素因もその発症に関わっているのではないかと研究が進められています。

 Q:MSにならないためにふだん心がけるべきことを教えてください。

 A:いうまでもなく生活習慣の改善が最も重要です。内臓脂肪蓄積を軽減するためには、何よりもまず食事療法および運動療法が必要です。

 食事療法の原則は、当たり前のことですが低エネルギーバランス食です。肥満の形成、すなわち体脂肪の増大は、過剰のエネルギー摂取による脂肪貯蔵現象により生じます。よって、食事療法を中心とした負のエネルギーバランスを達成することが何をおいても大切です。同時にまた、運動によるエネルギー消費はエネルギーバランスを負に保つ大きな要素です。

 Q:一日の摂取カロリーはどのくらいが適当ですか。

 A:これは人によって体格もふだんの仕事量も違うのでいちがいには言えませんが、大人なら1400〜1800キロカロリーだと十分に低カロリー食といえるでしょう。食習慣に関してですが、朝食抜きや就寝直前の飲食は肥満のもとです。

 Q:運動療法は具体的にはどのように進めればよいですか。

 A:まず注意しておきたいことは、太っている人が急に無理な運動をすると膝や腰を痛めたり、運が悪いと心臓や脳卒中の発作を引き起こすことがあるということです。

 有酸素運動という言葉を知っていますか。運動時、筋で使うエネルギーは体内の代謝により供給されなければなりません。その際、有効に脂肪を燃やすのには十分な酸素が必要になります。このような、酸素が必要で酸素の供給に見合った強度の運動を有酸素運動といいます。逆にいえば、強すぎる運動はいわば酸欠の状態でエネルギーを産生しなければならず、脂肪を有効に燃焼することができません。日常最も可能な有酸素運動は歩行です。だいたい10分間ぐらい歩くと体脂肪に火がつくといわれています。その他、ゆっくりと時間をかける水泳、自転車なども良いでしょう。特別な運動ではなく、こまめに歩くとか、エレベーターを使わずに階段を利用するとか、こういった活動的生活を毎日心がけることが体脂肪減少に役立ちます。食事療法が最優先ですが、運動療法をおこたると大きな問題が発生します。まず第1に基礎代謝が低下してきます。すなわち、少ないエネルギーで生きていける省エネの体になり、体重が減少しにくくなります。また、血糖を調節するインスリンに対する感受性が低下し、糖尿病や動脈硬化を促進します。さらには、筋肉が落ちて体型が悪くなり、しわが目立ってみすぼらしくなります。

 Q:痩せたけれどプロポーションが悪くなり老けて見える、というのは絶対いやです。

 A:そうならないためには、有酸素運動だけでなく筋力鍛錬もうまく取り入れましょう。手軽な方法として毎日10〜15分間駆け足、腹筋運動とか腕立て伏せをするのが良いでしょう。

 Q:一時的な減量に成功しても再び体重が逆戻りしたり、忙しくてついつい安易な方法に飛びついて結局失敗するという話をよく耳にします。

 A:肥満の形成は単に過食によるだけでなく、社会的環境あるいは心理的因子などの複雑な影響を受けています。とくにストレスや外食優勢の食生活変化は重要な問題となっています。太った原因の解明、生活習慣の改善など、行動修正療法も肥満治療の基本原則のひとつです。ところで、世間にはさまざまなダイエット法が氾濫していて、情報誌やテレビ番組でとりあげられたり、本にもなっています。ある単品の食材や飲食物を健康食品と称して、新聞や雑誌で「○○で肥満が改善した」「○○で糖尿病が治った」といった記事、宣伝があふれています。しかし、これらに薬理作用があって確実に体脂肪が取れた、MSが治った、という医学的証明はほとんどありません。

 Q:減量に成功するためには、どういった心がまえが必要ですか。

 A:絶対無理をしないこと、すなわち自分の生活様式に合った長続きする方法を考えることです。今までの生活習慣をいっきに変えてしまうのはよくありません。次に、目的意識をしっかり持つことです。なにも難しいことではありません。家族のために健康を維持したい、自分をかっこよく見せたい、スポーツがもっとうまくなりたい等々、いろいろあると思います。

 (金秀樹院長、医協東日本本部会長、あさひ病院内科、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800)

[朝鮮新報 2007.8.22]