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〈本の紹介〉 「北朝鮮の脅威」と集団的自衛権

偏見捨て、冷静な判断求める

 日本の世論は、なんでも答えを一つの方向へ誤導しようとする。とくにそれが朝鮮問題となると、「集団ヒステリー」(「ニューズウィーク」誌)に陥ってしまい、冷静な判断や思考ができない状況にある。

 現在、6者会談は朝・日関係だけを除いて着々と進展し、最も鋭く対立していた朝米関係もいまや友好ムードが漂い、また、北南首脳会談も来月初めには開催されることが決まっている。

 いかにしてこのような劇的な変化が起こりえたのか。それは東北アジアにおける冷戦の終結を告げる世界史的なできことであるのに、この間のドラマスティックともいえる動きは日本ではほとんど伝えられていない。

 その一方で、日本でフレームアップされるのは、本書のタイトルのような「北朝鮮の脅威」と「集団的自衛権」という文脈の時である。荒唐無稽な「北朝鮮の脅威」を言い立てて、日本国憲法で禁止されている「集団的自衛権」が行使できるようにしたいという願望がみえみえなのである。

 安倍首相は今年5月、首相官邸で開かれた「有識者懇談会」の第1回会合のあいさつで「わが国の安全保障環境は格段に厳しさを増している」と言い、その要因として「北朝鮮の核開発や弾道ミサイルの問題」を挙げた。その後もこの「懇談会」は回を重ね、「集団的自衛権」の行使を可能にする法体系の根本的転換をめざしている。

 著者は、「予断と偏見を捨てて冷静に考えれば、北朝鮮が米国に向かって弾道ミサイル攻撃をかけることは、万が一にもありえない。軍事技術的にも、政治的にも、北朝鮮による米国攻撃は、100%ありえない」と断言する。その「100%ありえない事態」を想定して、集団自衛権を行使できなければ、攻撃された米国を見捨てることになり、日米関係を損なうことになりますよ、と人々を不安がらせようとしているのが安倍政権の狙いである。

 本書は「北朝鮮の脅威」の虚像を完膚なきまでに剥がし、それが全くの政治フィクションであることを証明する。冷戦の終結によって、ソ連という仮想敵を失った防衛庁・自衛隊の幹部たちと、憲法改悪によって日本を軍事国家として確立させたいと願う政治勢力によって作り出された政治的フィクションなのだと。朝米関係が一大転換を迎えつつある今、タイムリーな一冊。(梅田正己著、高文研、1300円+税、TEL 03・3295・3415)(粉)

[朝鮮新報 2007.9.8]