第36回在日朝鮮学生美術展 講評 |
中高生の真っ直ぐな思い発信、ハッキョ守ろうとする気迫
9月5日に東京展を皮切りに始まった第36回在日朝鮮学生美術展覧会は、今年も地方ごとに特色ある展示を企画している。 今回、各地のウリハッキョ(朝鮮学校)から寄せられた作品はなんと1万2000余点に上った。 日本で生まれ育ったウリハッキョ生徒たちが今、何をどんな風に感じ取っているのか、また彼らに何を与えるべきかを教育現場で常に問いかけ、模索しながら、普段は教える立場にいる美術教師たちは、展示された作品から多くのことを学ぶ。審査委員となった美術教師たちはみな、作品の個性を尊重しながら公平かつ子どもの感性をまっすぐに受け止めようと、真剣な眼差しで作品から生徒たちの「声」を聞いた。 美術展に選ばれた作品を見ると、児童、生徒たちのどの作品からも民族教育を受け、すくすくと育つ彼らの学びと成長の姿がうかがえる。 今までもそうだったが、美術展の特色は、その豊かな感性の表出と、色感にある。決して単なる写生画のような状況説明だけの作品ではなく、感じ表現したい事を絵や立体で強く表そうとしている。
中には、朝鮮画で単なる表層の材料や表現の違いだけではなく、余白の美しささえ伝えようとした作品もあった。 生徒たちは、時には社会の矛盾や未知なる物への不安さえも創作過程で消化しようとする。何よりも自分自身の存在を見つめ、自分と関わるすべての物とのつながりを探り、家族、友だち、民族、未来、夢などを自分の持てるかぎりの方法を駆使して心象を素直に表わしている。 また映像や写真作品など、見るものに学校での闊達な生活を想像させるほど、奔放に表現を楽しんだと思える作品も多かった。 そんな中、目を引いたのはウリハッキョを守りたいという願いをこめた作品や、同胞生活を脅かすものへの批判など、中高生の真っ直ぐな思いを発信した作品が少なくなかったことである。 中でも高級部の作品、とくにクラブ所属生の作品はここ数年、質、量とも目を見張るものがあり、多くの美術関係者の注目を浴びている。 美術展のもう一つの大きな特徴であり、各地巡回展での反響は大きい。
作品と共に添えられた「コンセプト文」を読めばわかるように、彼らは、在日同胞社会を取り巻く複雑な環境に向き合い、表現者として答えを求め、真正面から格闘して悩み、苦しみを表出する。その姿は美しくも力強い。各地で行われている部展など年間を通した活動も活発で、外へ向けて発信しようとする姿勢は作品に如実に表れている。 美術展で見る作品が様変わりしたという言葉を最近耳にする。彼らの造形活動が絶え間なく前進し表現方法が多様化していくのは、生きている証でありこれからも時代と共に変化発展していくだろう。 展覧会を見た人は誰もが確信するであろう。ウリハッキョの生徒たちが日本に生まれ育ちながらも強くたくましく生きる力を育んでいることを。 一人でも多くの人が会場に足を運び、民族教育を受ける生徒たちのメッセージを感じ取ってほしい。 最後に、これからも現場の美術教師たちがこのすばらしき表現者たちの力を育むため、熱い思いとたゆまぬ努力で進んでいくことを期待したい。(在日朝鮮学生美術展覧会中央審査委員会) ※掲載作品は初、中級部は優秀賞、高級部は金賞 [朝鮮新報 2007.9.10] |