展覧会「民衆の鼓動」 10月6日〜11日 新潟県立万代島美術館 |
統一への溢れる思い
10月6日から、新潟県立万代島美術館を皮切りに日本国内5つの美術館で開催予定の展覧会「民衆の鼓動」は、これまで日本では体系的には紹介されなかった1980年代の南朝鮮「民衆美術」に焦点をあて、祖国解放以降今日までのリアリズム系統の美術の流れを追う展覧会である。 日本ではこれまで、南朝鮮の現代の美術といえば、モノクローム絵画と呼ばれる抽象画系統の作品、あるいは「現代美術」の共通言語のもと世界画壇の中で活躍する若手作家の作品が主に紹介されてきた。だが、そのいずれにせよ、「現代美術」の純粋性や国際性をことさら強調する方向に傾いてはいないかという疑問、そして、今活躍中の南の若手作家の作品に顕著に見られる、「現実」を見る視線の鋭さの土台となったものがまさに「民衆美術」ではないだろうかという推測もあり、そこからこの展覧会の構想が生まれた。
1980年、ソウル大学の学生であった呉潤らは、当時流行していたモノクローム絵画の芸術至上主義的な思考に飽き足らず、「現実と発言」同人を立ち上げる。彼らは、美術の枠を越え、美術を社会や政治、そして都市文明と関連させ、総体的な精神の反映として位置づけようとした。市民との「意思疎通方式の開発」をめざした彼らは、写真コラージュや商業広告の借用によって、農村都市間の階層的矛盾や大量消費社会、環境破壊などといった社会問題を、赤裸々な現実描写を用いて描いていく。 また、83年、洪成潭や崔烈らの主導によって、市民や労働者が版画を学ぶための「光州市民美術学校」が創設されるが、このような活動を通じて、まさに彼らがめざした一般市民との意思疎通が実践された。 「開発独裁」体制の当時の南では、現実の問題を追及することがタブー視されてきたために、民衆美術の作家たちのこのような活動は大きな波紋を呼んだ。実際、申鶴Kがみずからの故郷の村の田植えを描いた作品は、金日成主席の生家を讃えたものだとして、申鶴Kは「国家保安法」容疑で警察に連行された。そして、作品は現在も警察の倉庫に押収されたままである(よって本展では作家本人による再制作を出品)。
また洪成潭は、政府機関に連行され水責めの拷問を受けた際に見た幻視を、「浴槽−オモニ、故郷の青い海が見えます」と題する作品に描いた。 祖国分断から始まった冷戦イデオロギーは、結果として独裁政権の生命を延長させ、民主化の阻害となると考えられるようになった。それゆえに、民衆美術では「祖国統一」も主要なテーマとなった。孫壯燮の「歴史の窓−祖国統一万歳」は、このような背景の中で制作された作品であり、また、宋昌の「臨津江の渡し場」においても、表現主義的な色彩と筆致で描かれた2頭の牛の生命力あふれる姿によって、祖国統一への願いが表されている。 もちろん、こうした美術運動が突如として始まったわけではない。アンフォルメル(不定形絵画)、パフォーマンスやネオ・ダダ、モノクローム絵画へと展開していった南の美術史であるが、他方で、社会の現実を直視したリアリズム系統の画家たちもいた。
しかし、李承晩政権以降「反共」を国是としていた南では、リアリズムは弾圧の対象となったため、例えば、朝鮮戦争やそれに続く復興の様子を写真にとらえた林應植らも、リアリズム写真としてではなく「生活主義写真」として発表せざるをえなかったのである。このようなリアリズム美術の地下水脈は、その後も滔々と流れており、そしてそれが噴出するのが、民主化運動が盛んになった80年代だったのである。 展覧会には、民衆美術の思想とも通じる、社会的問題意識を持って制作する若手作家の作品も数多く出品される。この展覧会を通じて、今日の視点から80年代の南の文化や社会を見直すきっかけとなり、また、朝鮮半島と日本とのさらなる相互理解が促進されるきっかけになればと思っている。(高晟凵A新潟県立万代島美術館主任学芸員) 新潟県立万代島美術館 新潟市中央区万代島5−1万代島ビル5階 TEL 025・290・6655 [朝鮮新報 2007.9.27] |