「ユーラシア出会いのコンサートin薬師寺」 各地の民族歌謡、踊りを紡ぐ |
朝鮮半島、日本、中国 平和の「礎」となるひとときを 「ユーラシア出会いのコンサートin薬師寺」が9月24日、同実行委員会(朴才暎委員長)の主催で奈良市の法相宗大本山薬師寺の金堂前屋外特設ステージで開かれた。あいにくの雨にもかかわらず、北は青森、南は九州など日本各地から1500余人が訪れ観覧した。シルクロードの東側終着点と言われる奈良が誇る1300年の歴史を持つ世界遺産・薬師寺。幽玄の地を舞台に在日同胞はじめ、南朝鮮、日本、中国のアーティストたちが芸術を通してさまざまな出会いを紡いだ。 観客の心惹きつけた金剛山歌劇団
コンサートは、金堂がかすかなライトに照らされる幻想的な雰囲気の中、韓国古典舞踊を継承する金一志さんの僧舞で幕をあげた。舞服と長衫の律動と繊細な鼓のリズムで「静と動」のハーモニーを奏でた。 大蔵流狂言師・茂山千三郎さんと金剛山歌劇団の歌手・金明姫さんの息の合った司会で公演が進められたコンサートでは、続いて、民族楽器で伝統的な音楽を奏でるソウル国楽管弦楽団が登場。テグムとコムンゴによる2重奏「月光がせせらぎに映えて」、コムンゴ、カヤグム、ヘグム、タンソ、セピリ、チョッテ、チャンゴの各一点を用いた「霊山曾相」の演奏を披露し、民族情緒あふれるメロディーが夜空に響いた。 音楽舎「まほら」と中国歌曲(手)・李広宏さん、金一志韓国伝統芸術院生らによるコラボレーション。「まほら」が「ユーラシアの風」を重奏し、李さんが故郷・中国を想い「大地」を熱唱。津軽三味線とフーメイ(南シベリア・トゥバ民族の喉歌)による「ジョンガラ・デ・セッション」の珍しい音色と、金さんをはじめ金一志韓国伝統芸術院生たちが華麗に舞う「唐子」が舞台にあがった。
「森のイスキア」主宰の佐藤初女さんは、80歳を超える高齢にもかかわらず、はるばる青森から足を運んだ。「人と人、人とものの出会いなくして今の私はない。出会いなくして前には進めない。今宵の出会いが地球に輝く星になりますように」と喜びのあいさつを述べた。 金剛山歌劇団の舞台はひときわ観客の心をひきつけた。舞踊「高麗三神仏の舞」では金堂に安置された薬師瑠璃光如来と日光菩薩、月光菩薩の前できらびやかな衣装と神秘的な舞を披露した。女声独唱「花の歌」の端麗な歌声、男声重唱「鴨緑江二千里」「リムジン川」の迫力ある和音、チャンセナプ独奏「リョンガンキナリ」「アメージング・グレイス」の音色に観衆らは魅せられていた。 エピローグでは、コーラスグループ「コール萠」の合唱「平城山」に続き「アリラン」「ふるさと」を出演者総勢で歌い奏で、華やかな舞台の幕を閉じた。 朝鮮も日本も人の心に国境はない
今回のコンサートは「薬師寺を舞台に、日本と最も濃密で深い関係にある朝鮮半島とのかかわりを通して、時空を越えて遥かなるユーラシアへ想いをはせ、離れ離れになっていた人々と再び出会い、未来永劫に渡る平和への『礎』となるひとときをもちたい」という思いから企画された。 昨年9月、奈良に住む朴才暎さんの呼びかけで実行委員会が結成され、仕事や家事に追われながらも企画や財政、宣伝活動など準備に励んできた。また実行委のみならず、和紙と真珠の手作りの花を関係者全員にプレゼントした会社員の原保代さんをはじめ、協賛者やボランティアなど多くの人たちが活動を支えた。
25年間、薬師寺のすぐそばで暮らしてきた朴さんは「数年前に朝・日関係が悪化した時、他県で金剛山歌劇団の会場使用が中止になったり、奈良の行政も後援を拒んだりする理不尽な行為に憤りを覚えた。その時、朝鮮とも縁の深いこの地で在日同胞が育てたすばらしい芸術を観てもらいたいと思ったことが発端でコンサートを企画した。出演者や関係者、観覧者など全ての人たちに幸せを感じてもらえたらうれしい」と語った。そして、準備過程を通じ「目に見えないところで手伝ってくれた人たち、雨の中会場に足を運んでくれたすべての人たちに感謝したい。朝鮮も日本も、人の心に国境はないと身をもって感じた」という。 なおコンサートには、奈良朝鮮初中級学校の生徒、教員らと奈良出身の金剛山歌劇団OBたちが無料で招待された。 友だちのすすめでコンサートを観たという30代の日本人女性は「舞踊の衣装も踊りもすごくきれいだった。今までこういう公演を見る機会がなかったので、今日は観覧できて良かった。それぞれの国のすばらしさを感じられた」と感想を述べた。 また、50代の日本人男性は「アリランやリムジン川を聴いて学生時代を思い出し、胸が熱くなった。歌で通じるものがあるのだから、国同士も仲良くなれれば」と笑顔で語っていた。 折悪しく雨の中でのコンサートとなったが、ユーラシアの強い結びつきと連綿とつらなる歴史の事実は、訪れた人々の心にしかりと刻まれたことだろう。(文=姜裕香記者、写真=李松鶴記者) [朝鮮新報 2007.9.28] |