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くらしの周辺−冷麺の味と国際化

 論文執筆のため2週間ほど朝鮮に行ってきた。ホテルで過ごしていると顔見知りの運転手にばったりと出会った。握手を交わしながら食事でもと誘うと、彼は「アレだけは勘弁してくださいよ」とおどけて笑った。「アレ」とは2年前に彼と食べたイタリア料理のことである。高麗ホテルに程近い朝鮮初の本格西洋レストランは、クラシックが流れるお洒落なお店であった。しかし彼にはどうも居心地が悪いらしく、落ち着かない様子だった。
 そのうちに注文した温サラダが運ばれてきた。彼は鼻を近づけてくんくんと匂いを嗅いだあと、「これは何ですか」と神妙な顔で尋ねた。私は「これはイタリアのナムルだ」と答えて食べさせた。彼は2品目のピッツァ・マルゲリータに対しても同じ質問をした。私は「これはイタリアのチヂミだ」と言い、最後に出た渡り蟹のスパゲッティは「イタリアのピビン麺だ」と言っていずれも強引に食べさせた。

 しかし彼はほんの少ししか食べず、小声で「これだったら冷麺のほうが良かったのに」と恨めしそうに訴えた。

 私がこのような無理強いをしたのには訳があった。それは冷麺好きの彼が日頃から冷麺こそが世界一美味しい食べ物だと断言してやまなかったからである。しかし、ほかの料理を食べもしないでそんな事は言えないし、言ってはいけないはずである。彼には少々意地悪な事をしたが、これによってやっぱり冷麺が一番だと胸を張って言う「資格」を少しは持つことができたのだから許してくれるだろう。そうだ、今度会ったら最近できた広東料理の店にでも誘ってやろう。(慎栄根、朝鮮大学校助教授)

[朝鮮新報 2007.9.29]