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〈本の紹介〉 「原爆の絵」と出会う

被爆者の想いを受け継いで

 第2次世界大戦末期の1945年8月6日、米国が広島市に原爆を投下した。死者は十数万人に及び都市は崩壊した。

 本書には、原爆投下直後の広島を、被爆者自身が30年後に描いた「原爆の絵」とともに、絵が描かれてから30年後に聞いた作者たちの声と絵に込められた想いがつづられている。

 1974年5月、当時77歳だった小林岩吉さんが被爆直後の萬代橋の様子を描いた絵を携え、NHK広島放送局を訪れたことをきっかけに、NHKが「広島市とその周辺での被爆後の状況をあらわす絵」を募集した。そして、原爆死没者30回忌にあたる1975年までに、750余人の被爆者が描いた計2200余枚の絵が集まった。

 かけがえのない人を原爆に奪われた多くの作者たち。命を取り留めたものの、いまだ社会に蔓延する差別と偏見に苦しむ被爆者、子孫たちは少なくない。また、朝鮮半島の原爆被害者のように、語ることも「被害者」として認められることもなく死んでいった人も多い。

 誰もあの日の悲惨な光景を思い出したくない。話したくもない。しかし、生き地獄のような記憶をたどりながら絵筆をとり、語った。人間らしい死さえ許されなかった死者たちの「生」を取り戻すために。

 被爆から60年以上経った今、広島市はあの日を思い出させることのないほど近代的な都市に発展した。被爆体験のない者には、想像をはるかに超える戦禍をこうむった被爆者たちと、同じ体験をすることはできない。半世紀以上が過ぎ、すでに多くの被爆者たちがこの世を去っている。

 今後、決して原爆の惨禍を知るようなことがないように願う被爆者たちの声に耳を傾け「追体験」を通じ、被爆や戦争の残酷さ、そして被爆者たちの言葉に余る想いを後に伝えていかなければならない。(480円+税、岩波ブックレット、TEL 03・5210・4111)(裕)

[朝鮮新報 2007.10.15]