スニのための鎮魂歌 許南麒 |
スニは/十二才の女の子、左と右とがそろわない/かたちんばの運動靴を履いている/貧しい 朝鮮の子/いつも/日本の子どもたちに/いじめられたときは/真赤な夕日を見つめて/涙にうるむ/ひとりぽっちの女の子 海のむこうの/朝鮮の子供ばかりが遊んでいる/ふるさとを思い出しては/涙にうるむ/友達のいない女の子 スニのオモニは/日本へ出かせぎに行って/六年たっても帰って来ない/アボジをたずねて/玄界灘を渡った/オモニはスニの手を/かたく握り/スニはオモニの下裳を/しっかとつかまえて/母子がはじめて聞く日本の言葉に/わけもわからずおののきながら/汽車に乗った 下関から幌内への道は/如何ばかり遠かったことだろう/北海道から/九州の飯塚までの道は/どんなにかけわしかっただろう/スニのオモニとスニは/二年もかかってアボジを/ヒロシマで会った/ナガサキで会った スニがヒロシマの/石橋の上で/黒くすがたを焼きつけたまま/この世を去ったのは/アボジに会って十日もならない/八月のむかあつい/ある日のこと スニがナガサキの/コンクリートの道の上で/ふるさとの方へ/頭をむけたままの姿で/みまかったのは/アボジと一緒に何年かぶりで/朝鮮のお盆をやるんだと/はしゃいで出かけた/その朝のこと スニは/とてつもない爆音を聞き/スニは/途方もない大きなきのこ雲に/包まれて/そのまま/異国の土の上に/くずおれてしまった 「助けてくれ!」と/朝鮮語で呼んでも/誰ひとり答えるものもなく/「うちの父ちゃんや/母ちゃんに知らせてください!」と/国の言葉で叫んでも/誰ひとり返答もしてくれない/異国の空の下で/アボジにもオモニにも/あいさつ一つできずに/いてついた姿のままで/目を閉じた ひりひりと/のどが焼けつくようで/体中がうだるようで/それで「水を!」と/声をあげかけて/通らないことがわかり/ふるさとを流れる/透きとおった小川の流れを/何度も思いうかべ/目を閉じた スニは/十二才の女の子 右と左とがそろわない/かたちんばの運動靴を履いている/貧しい 朝鮮の子 自分のふるさとでもない/遠い異国へ/連れられてきて/オモニにも会えず/アボジにも会えず/故郷でうたった童べ歌一つうたえずに/もっと遠い国の原爆で/死してなおその屍さえも/やすらぐことのできない/むごたらしい姿で/死んでいった ヒロシマで/ナガサキで/死んでいった! [朝鮮新報 2007.10.17] |