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〈朝鮮の風物−その原風景 −3−〉 チャンドクデ(甕台)

「家伝」の味漂う露天貯蔵庫

 チャンドクデ。

 ひと昔前まで、朝鮮のどの家でもごく普通に見られた、甕置き場である。醤油、味噌、コチュジャン(唐辛子味噌)など、伝統的民族食品を自家製で製造し、保管する場所だ。

 一見目立たないが、長い時代のなかで培われてきただけに、その存在感は独特で、文化の香りが漂ってくる。

 こんにちでこそ、味噌、醤油などは食料品店で手軽に入手できるが、物の乏しかった昔は誰もが自前で仕込むほかに入手方法がなかった。そこで一家の主婦は、家族のために親から伝授された方法にのっとって、味噌、醤油造りにはげむ。すなわちチャンドクデの数の分だけ、「家伝」の味が存在したのである。「醤のおいしい家には福が多い」「醤の味をみれば家柄がわかる」ということわざは、味噌、醤油造りがいかに重要かつ大切な作業だったかをうかがわせる。

 チャンドクデは、普通台所に近い陽あたりのよい庭先につくられる。台座が地面より数十aほど高いのは、それは陽あたり、風通し、水はけなどをよくするための生活の知恵である。甕の数は各家によってさまざまだが、一般には大小とりまぜて5〜8個、裕福な家になると数十個並ぶこともあるという。

 これら大小の甕は醤油、味噌、コチュジャンなど、伝統調味料はじめ、キムチ、塩辛などの漬け込みなどにも使われ、そのほか塩、雑穀の貯蔵容器としても活用される。いわば露天貯蔵庫ともいうべきか。

 ここでいう伝統調味料の醤油、味噌とは、メジュ(味噌玉)に塩水をそそぎ、数カ月かけて甕の中で醸成させるもので、日本のたまり醤油、たまり味噌の源流となった製法をいう。高麗時代の文献「雞林類事」は、メジュを「密祖」と表記しているが、この発音がそのまま日本に渡り、「みそ」(味噌)となったことはよく知られている。

 ところで私たちの祖先は、一家の食生活に直結するチャンドクデを大切な生活空間と考え、愛情を込めて接してきた。

 人々は日ごと丹精込めてかめを磨き、チャンドクデ周辺を常に清潔にすることを怠らなかった。そして季節ごと、早朝汲み上げた一番水である井華水をチャンドクデにそなえ、感謝の気持ちと家族の安寧多幸を願って、祈りをささげた。ちなみに「春香伝」のウォルメ(月梅)が、婿李夢龍の科挙及第を祈願したのもこのチャンドクデである。

 人々に親しまれ、歴史をともに呼吸してきたチャンドクデ。かつて朝鮮のどの家にもあり、親しまれてきたものだが、押しよせる時代の波と生活環境の急激な変化に洗われて衰退の道を歩んでいる。だが、歴史のなかではぐくまれた民族文化としての存在は、未来においても私たちの心から放れることはない(絵と文 洪永佑)

[朝鮮新報 2007.10.20]