〈本の紹介〉 風韻にまぎれず−「哀号(アイゴー)」の叫び− |
人間の尊厳への思い深く刻む 会場に横づけ右翼の街宣車元「慰安婦」に放つ卑猥なる侮蔑語 脂粉なき元「慰安婦」と真向えりわれら生きいる現実も罪業 「女としてこんな恥しい事はない」壇上の金さん※の言葉途切れぬ。(※元「慰安婦」の金学順さん) 「十七歳の私を返して!」と泪拭う一生奪われし深き恨消えず かの時代かの国に生れしならば如何に元「慰安婦」金さんとわれは同年 「事実みとめまず謝罪を」と噎びたり加害者われら頭伏し居り ひとたびの生替え難し奴隷狩りのごとく拉致され堕とされし少女ら 「健康で貧家の娘」の指示ありて拉致されぬ貧しきは竟に無慙か 命令ぞ違えば殺すとけものめく将兵天皇を戴くけり 本書の作者は今年83歳。私家版の歌集「風は燃えつつ」を20年前に出したのに続き、2集、3集「風の音楽−はばたけ九条の心」を一挙に上梓した。この作品集が世に出たのは女性史研究家の鈴木裕子さんの勧めがあったからだと作者が「あとがき」で記している。日本軍性奴隷制問題を日本で逸早く取り上げ、あらゆる手段を通じて警鐘を鳴らし続けた人である。「天皇の軍隊」への共通の怒りと被害者たちへの深い同情が二人の女性を引き合わせたのである。 「海ゆかば水漬く屍 山ゆかば草むす屍 大君の辺にこそ死なめ かえりみはせじ」 本書に通底するのは、まさしく当時何も知らされず、「神の国」の国民として、ひたすら天皇賛美、アジア蔑視の教育を受け続けた深い悔恨の情である。 戦場で「獣」と化した日本軍将兵の性奴隷とされ、心身を引き裂かれ、人間の尊厳を踏み躙られた「慰安婦」の人々の深い「慟哭と恨」は、戦争被害者のなかでももっとも惨いものだろう。 とくに、作者にとって、元「慰安婦」の女性たちは同世代。「もし立場を替えて隣国に生まれていたらと思うと、涙が滲み、胸がしめつけられ、また、加害国民として申し訳なさで頭をあげることができません」との深い自省の言葉が綴られている。 2、3集を通じて、作者の時世を見る目は鋭く、二度と権力者に騙されてはならぬとの思いが溢れる。 「マスコミこそA級戦犯」権力に抗えぬ時代 抗わぬ現在 「うそつき新聞が戦争を煽り立て」ロマン・ロランの「クレランボー」に言う 北朝鮮の危機を煽りて有事叫ぶかつても現在も権力が煽る 「聖戦・靖国」の歴史認識と思想を持つ人々がそのまま政権の座にあり、62年後の今も、日本では侵略戦争への検証もないまま、「戦争のできる国」へと歴史の歯車が逆戻りしつつある。そんな歪んだ社会への渾身の力を込めた警世のメッセージ。人間の尊厳への深い思いが胸に刻まれる。(梨の木舎、各 2000円+税、TEL 03・3291・8229)(朴日粉記者) [朝鮮新報 2007.10.26] |