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〈朝鮮と日本の詩人-40-〉 石川逸子

 切りおとされた/あなたの首が/空に浮かんでいます

 「トキコ」と勝手に呼ばれていた/少女

 豆満江ほとりの「慰安所」に/押しこめられていた少女

 朝鮮語喋ったからと/見せしめに日本刀で首切りおとされた/少女

 あってはならないことが/天皇の軍隊でおこなわれて/「慰安所」行きは公用 と定められていたとか

 鶏のように首絶たれた/少女の無念は/切られ 放られた 首だけがいつか/はるか空の高みに上がっていったのです

 晴れた日にも/曇り空にも/かすかに あなたの首は/空に浮かんでいますね

 泣き叫んでいる/ウエヨ(どうして)と/泣き叫んでいる/あどけない幼な顔で

 詩集「砕かれた花たちへのレクイエム」(花神社1994年刊)に収められた、(1)から(10)まである「少女」と題する詩「少女(9)」の全文である。この詩集は全部で22の詩で編まれているが、そのすべてが「従軍慰安婦」にされた朝鮮の乙女たちへの鎮魂歌である。斬首された乙女の生首が空に浮かぶという酸鼻な幻想が主題でありながらも、「〜ます調」の柔らかいリズムにのせているがために、逆に読む人の怒りを呼び覚すという詩的効果を生み出している。

 石川逸子は1933年に東京で生まれ、御茶ノ水女子大学卒業後中学校の教師を努めるかたわら詩作を続け、詩「狼、私たち」で、詩部門の芥川賞といわれる「H氏賞」を受賞して認められた。一貫して日本の戦後責任を問う仕事にたずさわっている。とくに「従軍慰安婦」の実態調査や生存者救援と補償実施に力をつくし、これを主題にした告発の詩を多く書いた。ルポ「従軍慰安婦にされた少女」(岩波書店93年刊)もある。(卞宰洙、文芸評論家)

[朝鮮新報 2007.10.29]