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〈本の紹介〉 歌集「ヨコスカ−戦争が見える」

基地の街から見た戦争

 梅田さんは1944年、横須賀生まれで、ずっと横須賀に暮らす。99年に30年ほど勤めた横須賀市の小学校教員を、定年まで数年間残して退職した。基地の町、横須賀から世界を見据えるその鋭い感性と研ぎ澄まされた感覚から生まれる歌。本書はその基地の街から生まれた。

 その巻頭の一連「空母ミニッツ」のなかには次のような歌が詠まれている。

 「軍艦も潜水艦も並びおり憲法9条かすみゆく町」
 「二万人空母見るため押し寄せぬ基地の町ゆくさみしきデモよ」

 横須賀港で米軍の空母が公開され、横須賀には2万人の人々が押し寄せて、その空母を見るため列を作り、渋滞を起こした。一方、空母の寄港や戦争に反対するデモもあった。梅田さんが加わったそのデモは「小さき」「寂しき」デモであったと歌われている。平和への決意を新たにしたに違いない。

 梅田さんが当時勤務していた公立小学校では日の丸や君が代の強制がひどくなり、現場は重い空気に沈んでいた。その苦しみを背負い、朝日歌壇に投稿した歌が初入選した。

 「日の丸がマリアの踏み絵のごとせまりくる卒業の時期まためぐりくる」

 歌を通して平和を考え、肌身にしみて平和を深くとらえた歌。基地の街から見えてくる日本の未来への危機感、複雑な思いが投影されている。

 また、「短歌研究」に投稿した中国の平頂山惨案遺蹟記念館見学の五首一連の歌は特選にも選ばれた。歌人の近藤芳美さんから「凄惨な事実であるが、作品はその衝撃に耐え、冷静な把握として歌われている。その事実は、私たちがなお過去に負っている歴史を、正視し続けなければならないということをあらためて知らせてくれるもの」と高い評価を受けた。

 「ああやはりクライスター爆弾をキティーホークは積んでいたと知る爆撃報道に」

 「菜の花が誤爆報道に映りおりイラクにも春は来ているらしい」

 自らの住んでいる町から送り出した空母キティーホークから発射された恐るべき殺戮兵器。いったいどれほどの人々の命を奪ったことか。「菜の花」と「誤爆」の意外なとりあわせの中に、戦争の残酷さがうかびあがる。被害者の側に立って、その痛みを想像し、悲痛な声に耳を傾けようとする姿が胸に迫る。(梅田悦子著、ながらみ書房、1905円+税)(粉)

[朝鮮新報 2007.11.5]