〈本の紹介〉 立ち上がりつながるマイノリティ女性 |
差別を押しつけないために 被差別部落民、在日朝鮮人、アイヌ民族に対する構造的な差別が日本国内で歴史的に存在するなかで、これらの集団に属する女性たちの多くが複合的な不利益を被っている。マイノリティ女性が直面している現実や課題は、一般的にほとんど認識されておらず、日本の女性政策や人権政策からも抜け落ちてきた。 本書は、社団法人北海道ウタリ協会札幌支部(アイヌ女性)、部落解放同盟中央女性対策部(部落女性)、アプロ女性実態調査プロジェクト(在日朝鮮人女性)が、2004年から2005年にかけて実施した、女性たちの手によるアンケート調査の報告書である。 調査のきっかけとなったのは、03年にニューヨークで開かれた国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)。女性差別撤廃条約に基づき批准国の改善状態を審査する委員会で、日本政府は国内におけるマイノリティ女性に関するデータ、統計の収集を求められたが、政府の取り組みはその後も進まず、女性たちは「自分たちが抱える課題の解決につながる調査を自分たちで始めよう」「勧告を政府に実行させるための資料を提供しよう」と、それぞれのマイノリティ女性を対象としてアンケート調査を実施した。 調査は、教育、仕事、社会福祉、健康、暴力の分野で共通設問を設定。在日朝鮮人女性においては、A=自身について、B=職業、職場について、C=家庭生活と健康について、D=子どもの教育について、E=チェサ(祭祀)について、F=女性への暴力について、G=地域と社会についての7つの大きな質問別に、150項目にわたって行った。 調査結果からは、日本社会および自らの集団内部から2重、3重の抑圧を受けてきた女性たちの実態が明らかになっている。外部に対しては女性の問題より集団全体の権利回復が最優先課題であり、集団内部においては「個人の問題」「夫婦間の問題」として扱われてきた。女性が声を上げることは、「味方の足を引っ張る」ことであり、何より「内部の恥」をさらすことだと、封印されてきたのである。 調査に関わった梁愛舜さんは次のような一文を添えている。 「私たちが声を上げる目的は、自らの解放のためであることはもちろんであるが、何よりもこれ以上、新しい世代に差別と抑圧を押しつけてはならないと考えるからだ。それは外部からも内部からも。この共通の課題を持った私たち三者が共同することは、日本社会に顕在するマイノリティ問題解決にむけた今後の運動の糧になると信じている」。 本書は、第一部にアンケート調査の概要および結果(第1章)、調査結果から見えてくること(第2章)、調査を受けての提言(第3章)を収録。第二部に、調査に立ち上がった女性たちの声を掲載している。(反差別国際運動日本委員会、2200円+税、TEL 03・3568・7709)(金潤順記者) [朝鮮新報 2007.11.9] |