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〈本の紹介〉 現代の女性解放

「草の根ファシズム」に警鐘

 本書の著者は、働きながら明治大学文学部(第二部)を卒業し、「(株)医学書院」に入社後に労働組合運動にたずさわった。組合の委員長をつとめながら、労働の現場、とくに女性労働者の職場の苛酷な実態をえぐり出すルポルタージュを多く書いた。

 本書は、36歳で早世した著者が心血を注いで書いたルポと映画時評、それに座談会の記録をまとめた一冊で、活動集団「思想運動」の機関紙と、同集団発行の季刊雑誌「社会評論」に掲載されたものである。おもな内容はつぎのとおりである。

 第一は、著者自身の労働と学習と活動の体験をまとめた記録である。とくに女性労働者の無権利、低賃金、睡眠・休息もままならない過剰労働、首切りの不安等々、苛酷な労働現場を階級的観点から怒りをこめて告発している。

 第二は、1997年から2005年にわたる国際婦人デー集会での基調報告を中心に、グローバル化の本質をばくろし、労働者の権利の擁護と、ファッショ化の急流をせき止める憲法改悪反対の大衆運動の重要性を訴えている。

 第三は、世界女性行進(2000年の3〜10月)に参加した体験をもとに、世界の女性と連帯してたたかうことの今日的意義を明らかにしている。その一環として著者は「韓国の女性労働者の闘いに学ぼう」という項目で「韓国」の女性労働者が、階級の利益と女性解放の課題を統一的にとらえて「世界の労働者の頭上に光を掲げ」たことを「日本の女性労働者はこれを鑑として見習うべき」だと強調している。

 第四は、朝・日間の問題に鋭くアプローチしていることである。それは「『北朝鮮の脅威』論に抗して」「『拉致』キャンペーンはファシズムへの地均―今もとめられているのは歴史的、階級的見方だ−」「朝鮮敵視政策を許すな」の3項目であらわされている。

 著者は、「拉致事件」は完全に政治的に悪用されており、それを情緒的に広めて、いわゆる「草の根ファシズム」の種子がばらまかれていることに警鐘をならしている。

 いわゆる「北朝鮮脅威」の常軌を逸した悪宣伝については「いま、この国で『共和国バッシングを止めろ』『朝鮮の社会主義体制を崩壊させる策動を止めろ』と声高に言うことは、ある種の覚悟を要する」と述べながらも、自らが脅威論の虚構性をあばき出し、こう指摘している。

 「そもそも、日本には共和国の体制と政策をとやかく言う資格はない。朝鮮を植民地にしたうえに、朝鮮の民主的独立を妨げ、分断と南北の敵対関係に手を貸したのはほかでもない日本である」。まさに正鵠を射たことばである。

 さらに著者は、わい曲された歴史認識にもとづくナショナリズムが朝鮮敵視政策を主導している事実を簡潔に論証し、それが在日同胞への弾圧につながっていることの不当性を糾弾している。

 本書は、現代を貧困と帝国主義戦争の時代だとする著者が、日本社会の暗部に照明を当てることで、国際的視野から日本を見る観点を与えてくれているため、私たち在日同胞にとっても一読に値する好著だといえる。(本郷文化フォーラム女性労働研究会編、スペース伽耶、1905円+税)(辛英尚 文芸評論家)

[朝鮮新報 2007.11.17]