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〈朝鮮と日本の詩人-44-〉 若山牧水

金剛山の絶景に感嘆

 この国の山低うして四方の空はるかなりけり鵲の啼く(東莱温泉にて)

 よびかわす雉子の声やをちこちは小松ばかりの山まろうして(珍島竹林洞にて)

 呼びさます鵲の声きこゆなり今朝も晴れたらむ窓さきの木に(儒城温泉にて)

 ときめきし古しのぶこの国のふるきうつわのくさぐさを見つ(慶福宮にて)

 まなかいに聳鎮もりとうとけれおろがみ申す衆香城峰(金剛山白雲台にて)

 わが立てる峰も向かいの山々も並びきおいて天かけるごとし(金剛山白雲台にて)

 牧水は死の1年前の1927年に朝鮮へ揮毫旅行に出た。5月16日に関釜連絡船で釜山に着き、大田、光州、羅州、木浦、珍島礼山をへて京城に入り、ついで金剛山に1週間ほど遊び、元山、京城、仁川、大邱を巡って釜山に到り7月12日に下関に帰った。

 この間に詠まれた歌は意外と少なく31首である。これは揮毫の催しに多忙であったためだと思われる。

 第1首から3首までは当時の朝鮮の自然を特徴的に叙景していて趣がある。第4首は「繁栄した古き時代のこの国のさまざまな陶磁器を嘆賞した」感慨を吐露した秀吟である。第5首は、眼前にこうごうしく聳えて鎮まる衆香城峰を拝みますと感嘆を叙している。第6首は金剛山の絶景に嘆声をもらしている。

 牧水は処女歌集「海の声」で一躍名を成した歌人で、15冊の歌集を世に問い、自然流露、平明温和な朗読調の歌風をもって短歌史に大きな足跡を残した。「若山牧水全歌集」(短歌新聞社75年刊)に収められている。(卞宰洙、文芸評論家)

[朝鮮新報 2007.11.26]