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〈みんなの健康Q&A〉 アスペルガー症候群−特徴と対処法

コミュニケーションや想像力の障がい

 Q:アスペルガー症候群について教えてください。

 A:私の勤めるクリニックは主に大人を対象とした心療内科・精神科のクリニックですが、患者さんの中にはアスペルガー症候群の方たちも多くはありませんがいらっしゃいます。

 アスペルガー症候群(アスペルガー障がいとも呼ばれます)とは、自閉症の一つのタイプで、3歳までの言語・認知面の発達は正常ですが、社会的な相互交流と興味の限定において自閉症と同様の特徴を示すものとされています。アスペルガー症候群と近いとされる自閉症には高機能自閉症と呼ばれるものがあります。この二つの自閉症をごく簡単に分けると、知能は正常だが言葉の遅れがあるものを「高機能自閉症」と呼び、知能が正常で言葉の遅れがないものを「アスペルガー症候群」といいます。

 アスペルガー症候群は学習障がいや知的障がいと同じ発達障がいというグループに属しています。200〜300人に1人位の発症頻度で、女児よりも男児の方が3〜4倍ぐらい多いといわれています。

 Q:アスペルガー症候群の主な特徴はどのようなものですか?

 A:アスペルガー症候群は、「コミュニケーション」や「想像力と創造性」などに障がいを持つことで診断されます。「コミュニケーション」とは、自分の思っていることを相手にどう伝えるか、相手の言いたいことをどう理解するかなどです。他人の気持ちの推測力、すなわち「空気が読めない・読むのが苦手」というのが大きな特徴です。例えば普段ひとは、相手の仕草や表情のちょっとした変化や雰囲気から多くの情報を集め、相手の感情や認知の状態(相手が何を考えているかなど)を読みとるものです。しかし、アスペルガー症候群の患者さんたちは、相手の微妙な表情の変化(口角の角度・眉間の皺・目の開き方・視線の先)や声のトーン、ボディランゲージなど、情報の変化を理解することがとくに不得意です。また、自分の感情を顔の表情や仕草で表すことも同じように苦手なので、他人の気持ちにうまく応えられません。一般にはこのような相手の気持ちを読む能力は、4〜5歳ぐらいから芽生え始めるといわれていますが、アスペルガー症候群の子どもは相手の言ったことをそのまま受け止めてしまい、周りの大人を驚かせてしまいます。

 Q:ほかにはどのような特徴がありますか?

 A:彼らはお世辞を言うのも、言われるのも不得意です。社会ではそれが仮に事実だとしても「本当の事」を言わない方が良い場合があります。例えば「実際の年齢よりも年上に見える」と言う言葉も、「貫禄がある・年老いている」と受け取る側の感じ方でどちらともとれてしまいます。アスペルガー症候群の方の場合、こうした認識が極めて低いため、つい本当のことを言ってしまい、結果的に相手を傷つけてしまうことも珍しくありません。

 さらに想像することも苦手です。想像力とは、自分が「相手の立場になって考える」などです。みなさんも子どもの頃に、「お医者さんごっこ」や「お父さん・お母さんごっこ」をしたことがあるでしょう。「ごっこ遊び」は、子どもたちが自分たちの想像力を高め、実現できる遊びなのです(最近話題の施設、KidZaniaが良い例です)。しかし、アスペルガー症候群の子どもは、こうした「ごっこ遊び」には興味を示しません。それは、アスペルガー症候群の方は想像力・創造性といった感性が乏しいためです。ですから彼らアスペルガー症候群の方たちは何かの立場になって考えるなどが不得意なのです。

 Q:コミュニケーションの問題で、ほかにはどのようなことがありますか?

 A:彼らは言葉を省略されてしまいますと、省略されたところを推測することが苦手ですから、完全な文章の方が理解しやすく、本人も同様の表現を使うことが多いようです。成人になった場合でも、例えば上司にも態度を変えない直裁的な言動、人付き合いの悪い行動などにより、職場などでトラブルとなることが珍しくありません。しかし能力は高いことが多く、研究者など自分のペースで好きな仕事に没頭したりすると大きな成功をなしとげる人もいます。過去の有名人では、織田信長、アインシュタイン、ゴッホなども、アスペルガー症候群だったのではないかといわれています。現代人では世界一有名なコンピューターソフト会社M社のG会長もそうではないかと考えられています。

 Q:アスペルガー症候群の子どもへの対応の注意点を教えてください。

 A:先ほども説明したように、彼らは一般的に相手に言われた言葉をそのまま表面的に受け取り、省略された部分を読み取ることが苦手です。ですから、言葉の省略は極力せずに完全な文章で話すようにすると良いでしょう。具体的に言うと主語・目的語をできるだけ省略しないようにするのも大切です。「あれ・それ」などの代名詞の理解も不得意です。代名詞とは同じ言葉でも状況によって指すものが違うため、状況の判断が不得意な彼らは「何を指してるのか」を推測することが大変困難ですし、そのような状況では混乱してしまいます。例えば、私たちが字幕付の映画を観たとしましょう。不親切な字幕で字が小さく、所々かすれていたとしたら、肝心の映画に集中できず、「あれ? あのシーンはどういう意味だったのかな?」と映画を楽しむことはできません。アスペルガー症候群の子どもにとって「暗黙のルール」の理解は困難ですから、ルールはできるだけ明確にしましょう。曖昧な指示はとくに苦手で、理解できないと思った方が良いでしょう。

 基本的な対処方法はまず、アスペルガー症候群を理解するということです。アスペルガー症候群の子どもは社会性、コミュニケーション、想像力などの領域に障害があります。その場にそぐわない誤った行動、風変わりな行動をとったとしても、「わざとやっている」とか「ふざけている」というふうに受け取らないようにしてください。そのような行動の多くはアスペルガー症候群特有なものです。

 Q:子どものアスペルガー症候群を疑った場合はどうしたら良いですか?

 A:「小児発達」を専門にした病院の受診をお勧めします。最近では小児発達を専門にしたクリニックも見かけるようになりました。もし、心当たりがなければ最寄りの保健所、児童相談所、療育センター、教育相談所などにも専門家がいる可能性があります。

 Q:薬での治療は可能ですか?

 A:アスペルガー症候群を根本的に治療する薬剤は残念ながら今のところ見つかっていません。アスペルガー症候群に対する薬物療法は基本的には対症療法が中心となります。強いこだわり・パニック行動・攻撃性などに対しては、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などが一定の効果を示すことがあります。精神科医や発達に詳しい小児科医に相談してみて下さい。(駒沢メンタルクリニック 李一奉院長、東京都世田谷区駒沢2−6−16、TEL 03・3414・8198、http://komazawa246.com/)

[朝鮮新報 2007.12.12]