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「心がいたい」

 「調子はどうですか?」「よく食べられますか?」医師の質問に「食べてはいるのですが、この辺がむかむかしたり病んだりするんです」と、胃の辺をおさえる妹。それに答えようともせず「ここはどこですか?」「今日は何月何日?」「何曜日?」「年はいくつになりましたか?」と質問が続く。

 考えていた妹が私の方を見て、「私いくつになったっけー」と聞いてきた。「自分ではいくつだと思っているの? 思った通り答えればいいんだよ」と言ったら、「48かなー」とちょっと照れたように笑って答えた。

 次に先生が、紙とペンを妹の前に置いて「なんでもいいから文章を書いてください」と言った。妹はペンを握ったものの、紙とにらめっこ。かたずを飲んで見守る中、静かにペンが動いた。思わず立ち上がって文を読んだ私。息をのみ、椅子に倒れこんだ。「心がいたい」と書かれていたのだ。

 「心がー」「どうして心が痛いの?」と先生が聞いた。「うーん、何か解らないけれど、みんなに大事にされて幸せすぎていいのかなーとか、みんなに迷惑をかけているような気がして…」ボソボソと答える妹の姿に私の涙腺が切れた。心まで失われると思っていたアルツハイマー病に対する認識不足が恥ずかしく思えた。1年1回実施される脳機能検査の結果は、昨年5点だったのが、今年は10点になっていた。今妹は、ある日、突然自分から起きだし掃除を始めてからというもの、奇跡と思えるほどに快方に向かいほとんど自力で生活できるまでになっている。(鄭邦子、主婦)

[朝鮮新報 2007.11.17]