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「冬到来」

 朝、カーテンを引いて驚いた! いつ降り、いつ積もったのか、外の風景が銀世界と化している。別世界に引き込まれたような静寂の中で、降りしきる雪の舞を目で追いながら、2年前のある日のことを思い出していた。

 あの時の私は、アルツハイマー病である妹の介護のために、この地に向かう新幹線の中に座り、悲しみと不安の交差する複雑な心境で、窓の外を舞う雪を見ていた。あの頃は、妹の病の進行の速さに恐れ、振り回され疲れきっていた。寝床から出ようともせず、外出も、人と会うことも、身体を動かすことも嫌がる妹、本や新聞を読むことも、日記や手紙、絵を描くこともできずにいた妹。無表情な顔から笑顔は消え、瞳からはきらめきがなくなり、家事だけでなく身の回りのすべてを忘れ、人手を必要としていた。

 その妹が、今は朝早く起き布団を上げ、掃除をし、洗面を終え、食卓の前に座っている。身の回りのほとんどすべてを自力でこなし、人との会話も、電話での対応も、信じられないほど上手になった。よく笑い、怒り、動く。最近描いた絵も先生にほめられた。この喜ばしい状態に感謝しながらも、私の心は晴れない。一度かかったら二度と生還できないという、この病の恐ろしさの残酷さゆえである。

 今日もまた、繰り返し言うだろう。「お姉さん、どうしてここに来ているの? 行く所がないの?」と−。雪に閉ざされる東北の厳しい冬の到来に、今の妹の状態を維持するためにはどうすべきかが、最大の課題である。(鄭邦子、主婦)

[朝鮮新報 2007.12.22]