top_rogo.gif (16396 bytes)

〈同胞介護 各地の取り組み 上〉 潜在力引き出し、人材育成、確保

 ホームヘルパー・障がい者(児)居宅介護従業者養成講座(2級課程、運営=NPO法人コリアン生活支援ネット「ナビ」)を受講し修了した。現在の介護の現場を支えているのは、制度や施設といった「ハードパワー」よりも「ソフトパワー」、即ちサービス提供者の質と量であることを垣間見た。「同胞による同胞への介護」に提起した問題点を踏まえ、同胞社会にある潜在力を引き出そうと力を尽す各地の取り組みをレポートする。

ニーズに応えきれない人材難

 人はいずれ老いる。個人差こそあれ、異論の余地はない。

 厚生労働省の推計によると、2015年には日本国内人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は25%、つまり4人に1人が高齢者になると言われている。従来の予想を10年も前倒しすることになる。

 急速な高齢化社会の到来は必然的に、福祉サービスの質と量の向上を求める。同胞社会のニーズも同様だ。

 都内の介護療養型医療施設のある院長は「介護業界を取り巻く環境が日々厳しくなる状況下で、最高のパフォーマンスを発揮していくことは容易なことではない」と指摘したうえで、「介護とは介護度5、4という数字で患者をひとくくりにできるほど単純なものではなく、一人ひとりにあったケアが求められる大変奥の深いものであり、人間の尊厳を取り戻すことにその本質があると思う。したがって、介護で最も重要なことは介護にあたる人が心を裸にすることだ。技術的に上手、下手ではなく、いかに真心を込めて接することができるかだ」と強調する。

 福祉サービスに必要不可欠な質と量は、サービス提供者の質と量に大きく依存する。

 しかし、この質と量を十分に提供するのは困難を極める。どこの事業所でも人材の確保に頭を悩ませているのが現状だ。

 「バブル崩壊」による就職難時代、採用率のよかった介護の現場に多くの人材が流入したが、利用者からの依存度が高いために起こる「燃え尽き症候群」や人件費の低さから離職者が相次ぎ、現在、人材難は著しい。とくに男性サービス提供者が不足している。

 連載の中で問題点だと提起した、女性が「優位にならざるをえない」福祉の現場は、ひとつは高齢者の面倒を看るのは家族、とりわけ女性の仕事と考える古い風潮から、その延長線上で「女性の職場」となってしまった傾向がある。また、利用者の多数が女性であることから、利用者自身が同性による介護を求めるのも理由のひとつだ。

 しかし、「今日の風呂(入浴介助)は男か。なら入らない」と男性利用者から言われ、頑なに拒まれたという事例もある。福祉が措置から選択、利用の時代に切り替わっている現在では「強制」など存在しえず、いかんともしがたい。

 介護がサービス提供者の視点で語られることは多々あるが、今後は「いかに介護をするか」と同時に「いかに介護を受けるか」の2点を論じていく必要もあるだろう。

 女性が多く男性が少ない現状について、「男性を家族の柱と考えるのはナンセンス」との指摘の一方で、「給料が低いために、家族を養えない」という実情についての指摘は少ない。

 施設常勤の介護士の場合、激務をこなしたうえで月14〜15万円程度(都内介護療養型医療施設、週休一日、10時間程度の労働の推定)の収入である。安定した生活ができないと、3年以内での離職率は非常に高く、最近では求人広告を出してもなしのつぶてだという。

 ニーズに応えるだけの絶対的な量がまず足りていない。

同胞社会には十分な潜在力

 だが、このような慢性的な人手不足の中でも、人材確保という点においては同胞社会には展望がある。

 お互いにわかり合える者同士がよりよい関係を築けることに疑いの余地はなく、同胞高齢者のケアと生きがいの創造は同じ文化を受け継いだ2世、3世が担うものだと各地での取り組みが進んでいる。

 同胞介護を専門とする「ケアサポートナビ荒川」を支えているのは、通信講座1期生だ。自ら育てた人材が直接、同胞の介護にあたっている。2期生もすでに数人が登録を終え、現場に出ている。

 林瑛純理事長は、「同胞のためにと集まってきた人たちだけあって、すでに一番の難題はクリアしている」とも言う。同胞のためだからと、あまりにも「のめり込んでしまうこと」がむしろ今後の課題だと指摘する。

 「多くの苦労をされた1世たちを少しでも癒してあげたい。そう思えば思うほど、この仕事はハートがないとできないと感じる。事務的に行う仕事ではない」と「ナビ荒川」の鄭亨順さん(1期修了生)は語る。

 「ナビ荒川」に勤めるホームヘルパーは、このように同胞への介護に生きがいを見つけている人々である。

 同期生という横のつながりも大きな強みとなっている。

 介護への向き合い方は「山登りにもいろんなルートがあるように、いろいろなかたちがある」(瀬島慶子・介護認定審査会委員)。

 「ナビ」の2級講座受講過程は、みんなで同時に「6合目」まで登ろうということである。同じ目標を見据え、志を等しくした者たちが登頂の過程で強い絆を築いていくのもうなずける。

 林瑛純理事長は、人材確保の厳しい業界事情を理解したうえで「引き続き人材の発掘、育成、そしてヘルパーのレベルアップをしていきたい。同胞社会にはまだ引き出しきれていない潜在力がある」と強気の姿勢を崩さない。

発掘、育成にかける新しい試み

 2005年度、朝鮮大学校短期学部生活学科に「福祉コース」が新設され、介護福祉士の資格を持つ「同胞福祉専門家」を輩出している。1期生6人、2期生7人。

 「福祉コース」の特徴は国家試験である介護福祉士の受験資格取得、通常のカリキュラムに加え、同胞福祉問題の特別講演や同胞福祉施設での実習などを経て、同胞社会で即戦力となりうる人材の育成にある。

 同学部の任美玲助手は「同胞社会の要求に応える人材とは、同胞の要求に沿って対応できる知識、技術、応用能力を持った人材を指す」と指摘する。そして、「人間に直接触れる仕事という面で、対人関係のスキルアップにも力を注いでいる」と述べ、「潜在する同胞有資格者は多数いる。『福祉コース』卒業生を含む『同胞介護ネットワーク』を広めていく必要がある」と強調した。

 同学部の金貞淑講師も「朝大から各地へ目的意識を持った人材が散らばることで、あますことなく同胞介護網を築けるはずだ。そうなれば同胞社会が同胞高齢者の拠り所となれる」とネットワーク構築の意義を説く。

 そのためにも、二重三重の差別のなかとはいえ、より広範な人材発掘、育成のために小中高の教育課程で福祉に対する理解を積極的に促していく努力が不可欠だと指摘した。(鄭尚丘記者)

[朝鮮新報 2008.2.12]