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常識と科学

 「生命とは何か」を主題にした「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一著、講談社現代新書)という本を読んだ。冒頭から衝撃的だった。千円札の肖像になるほどの偉人として知られる野口英世の研究業績のほとんどが、実は今では「間違ったもの」「意味あるものはほとんどない」というのだ。「ウイルスは微小すぎて彼の使っていた顕微鏡の視野の中に実像を結ぶことはなかった」。ただの錯誤かデータの改竄か、病原体発見へのあせりからか。真相は不明だが、いずれにしても彼は当時の光学顕微鏡では見えないはずのものを「見てしまった」のだ。

 反対に真実が埋没させられた例もある。望遠鏡による観察結果を信じ地動説を展開したガリレオは、裁判にかけられ主張を封じられた。一千数百年の歴史を持つ天動説に立ち向かい、真実(地動説)を唱えたが認められなかった。

 天動説も野口の「発見」も、当時は正しいと思われた。だから現在、正しいと思われていることがこれからもずっと正しいと(少なくともすべてが否定されることはないと)は誰にも言い切れない。

 「意識」に関する興味深い実験結果がある。筋肉を動かすための運動神経の指令は、心が「動かそう」と意図する脳活動より0・5秒も先だというもの。意識の決断によって体が動くという「一般常識」をことごとく覆すものだ。実験者によると、「あらゆる行動はそれが起こってから0.5秒後に意識に上る。気付いた時には既に行動は起こっている」。

 これは野口か? ガリレオか? 真実を知るのが恐い気もする。(泰)

[朝鮮新報 2008.2.12]