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〈元徴用軍人遺骨返還〉 朝鮮の遺族への返還

 1月22日、祐天寺で遺骨返還式を取材した際、厚労省の平澤光男外事室室長補佐に、「朝鮮民主主義人民共和国に遺族がいることが確認された遺骨が、祐天寺にあるのでは」と聞いた。

 これに対し平澤氏は「北朝鮮とは国交がないから確認できない。北朝鮮の遺族のことは手をつけられない外務省マターだ」と答えた。

 しかし、05年の朝鮮による調査で、祐天寺にある遺骨のうち38体の遺族は朝鮮に住んでいることが確認されている。

 しかし厚労省、外務省はそれぞれ今回の遺骨返還式で、その事実をまったく明らかにしなかった。

 私は06年5月4日に平壌で、その遺族の一人、金元鏡さんを取材している。金さんの父、金正表さんは44年に強制連行され、04年になって、44年12月30日にインドネシアのセレベス島で「戦病死」しており、遺骨が祐天寺にあることがわかった。

 金元鏡さんによると、平壌に住む金勇虎さんの父、金龍均さんは43年9月19日、ギルバート諸島タラワ環礁ベティオ島(現在のキリバス共和国)で戦死した。

 金元鏡さんは私の取材にこう話していた。

 「父の消息が60年ぶりにわかったとの連絡を受けてから、数日間は家族や親せきと一緒に泣きながら過ごした。日本政府が朝鮮の若い青年たち、罪なき人々を連れて行き、奴隷のように扱い、死に至らしめたことに対し、何の謝罪も補償もない。一日も早く父の遺骨をもらい、父の故郷の土地に埋めたい」

 「朝鮮人強制連行真相調査団」の洪祥進・朝鮮人側事務局長によると、この遺族2人は04年11月末に日本へ来る予定だった。

 しかし、日本政府が随行員3人(朝鮮日本軍「慰安婦」及び強制連行被害者補償対策委員会メンバーと通訳)のビザを出さなかったため、日本語ができない高齢の遺族2人は訪日できなかった。

 その後06年7月にも、遺族2人と随行員2人がビザを日本政府に申請した。しかし、今度は随行員とともに遺族2人の入国も認められなかった。

 私は2月1日、平澤氏に次のような質問書を送った。その際、06年に高麗ホテルで金元鏡さんに聞き取り調査した時の記録も付けた。また、遺骨返還に関係する外務省報道課、厚労省職業安定局総務課人道調査室・翁長響己氏にも送った。

 「1、私が平壌で会った金さんの父親の遺骨は、祐天寺で確認されているか。もう一人の金さんの場合はどうか。2人の遺骨は1135体のうちに入っているか。2人の訪日のビザが2回も拒否されたのは事実か。今後、認められることはあるか。軍人軍属の賃金未払いの問題はどうするか。

 2、今後の日朝国交正常化交渉で、朝鮮に遺族がいる人たちの遺骨はどう対応するのか。またこれまでの日朝交渉でこの問題が取り上げられたことはあるか。

 3、軍人軍属以外の強制労働で死亡した人々の遺骨のことはどうするのか。国交がなくても、人道的立場から赤十字などを通じて動くことはできないのか」

 これに対して3省庁は、それぞれ私に回答してきた。

 平澤氏は2月5日、電話で「遺族が今北朝鮮にいる金元鏡さん、金龍均さんのお父様の遺骨を確かに安置している。返還については外務省が進めることだ」と回答した。

 厚労省人道調査室の翁長氏は2月4日、「04年の日韓首脳会談での合意を受け、遺骨返還について関係省庁で連携して取り組むこととなった。当室は地方公共団体と宗教団体などから、民間徴用者で死亡した人たちの遺族の所在に関する情報を集めている。国内の現地に赴いて遺骨を保管している団体などから収集した情報を、外務省ルートで韓国側に提供している。現在の北朝鮮に当たる地域に本籍のある人の場合も、一括して韓国に伝えている」と説明した。

 同室が、今までに現地調査して収集したのは113体で、番地まで判明している方々が23人、里・洞までわかった人たちは34人という。

 また「遺骨の返還については外務省が政府レベルで外交協議を経て決める。民間レベルでこれまで返還された遺骨は、政府としては把握していない」と述べた。1月の軍人に続いて徴用動員者の遺骨の韓国への返還もありそうだ。

 外務省報道課は2月8日、ファクスで「当省の回答」を送付してきた。

 「日朝間のやり取りの詳細を明らかにすることは差し控えるが、御遺骨の北朝鮮への引渡しについては、将来、適切な時期に、北朝鮮との間で調整を行うことになると考えている。

 北朝鮮籍を有する者の入国については、入国に関する申込みが行われた後に、関係省庁で協議のうえ決定されることとなっている。個別の査証の申請に関する問い合わせについては、詳細を明らかにすることを差し控える」

 今後は、強制労働犠牲者の遺骨返還が問題になりそうだ。

 外務省が、公式に朝鮮への遺骨引き渡しについて公式に言及したことも注目される。国交正常化交渉で日本側が提案するのではないかと思う。

 NHKは1月22日の「ニュースウォッチ9」で祐天寺の返還式を伝えた後、「軍人軍属の人たちとは別に、当時日本の民間の企業に徴用された約70万人の中で死亡した人たちの遺骨が今も日本の各地に残されたままになっている」と特集で伝えた。いい番組だった。

 番組は、北海道室蘭市の住職、殿平善彦氏が強制労働で死亡した朝鮮出身者3人の遺骨を供養していることを紹介した。

 徴用されたチョン・ヨンドゥクさんの遺骨を映し出し、05年に室蘭を訪れた遺族が「日本政府や雇用企業がきちんと説明したうえで返してほしい」として、遺骨を持ち帰らなかったと伝えた。

 NHKの特集は、「遺骨を待つ側の人たちはどんどん高齢になっている。対応が急がれますね」というキャスター2人のコメントで終わった。

 日本の政府とメディアは、日帝による徴用犠牲者に「北」も「南」もないことを確認し、平壌にも遺骨の名簿を提供して、「長きにわたり大切に供養し、お預かりしていた」(岸宏一・副厚労相)遺骨を、「できるだけ早くご遺族にお返しできるよう努力」(木村仁・副外相)するべきである。(ジャーナリスト、同志社大学教授 浅野健一)

[朝鮮新報 2008.2.18]