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「そこに同胞がいるから」

 四季折々の花木に目を細め、一歩一歩足を運ぶ。長く険しい道程はつらくても、頂からの絶景を望めば、疲れも吹き飛ぶ。澄んだ空気、清々しい風、登りきった達成感、ハイカーたちとの出会い―山には人それぞれ、多くの感動がある。

 先月、在日本朝鮮人登山協会主催の同胞大登山大会に同行取材した。今年の開催地は、富山県の立山(3015メートル)。

 1泊2日、初日のメインは、各地から集まってきた190余人の同胞たちとの宴会。1年ぶりの再会、会場を見渡すとそこかしこに笑顔があった。

 2日目、折悪しく早朝から大雨。出発時刻を迎えるも、雨足は強まるばかり。それでも、目的地を変更し、リュックを背負い、雨風防備をした半数の人たちは、登山を始めた。登山初心者の記者も試みたが、目の前は一面霧で覆われ、激しい雨と風が道を阻んだ。情けないことに、途中で引き返すしかなかった。

 晴天の下、山頂で絶景を眺め、おにぎりをほおばる例年のような「登山大会」ではなかったが、帰路につく参加者たちの顔からは笑みがこぼれていた。

 20〜80代までの幅広い顔ぶれは、「各地方の同胞と会えるのが楽しみ」と口をそろえる。「山では天候の変化がつきもの。同胞たちとのふれあいだけで満足」と笑い飛ばす人もいる。そしてある同胞は、参加の動機をこう語った。

 「そこに山があるからではなく、そこに同胞がいるから」

 直後、足元の水溜りを見てみると、そこに映るのは記者の能天気な笑顔。少し照れくさかった。(裕)

[朝鮮新報 2008.9.8]