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〈関東大震災下の朝鮮人虐殺問題-8-〉 集団的に鬼と化した群衆

 B各地における民衆による虐殺状況

 関東各地での朝鮮人虐殺の状況を呈示するといっても、本連載の「はじめに」で述べたように、体験談や目撃記、伝聞記録の多さは他の地震、火災記録の追随を許さないものがある。

 ここでは、紙数が許さないので、各地における特徴的なと思われるものをごく一部呈示することにしたい。

 ▼東京での例

日本の官憲と民衆によって虐殺された朝鮮人のたくさんの遺体が、埋葬もされずに放置された

 「父の友人である大島町八丁目の野原さん宅へ行った(避難のため)〜翌日朝、近所の人びとが走って行くので、なにごとかと見ますと、警官が一人の男を連行して行くのを一団の群衆が、朝鮮人、朝鮮人と罵しりながらとり巻いています。そのうち群衆は警官を突きとばして男を奪い、近くの池に投げ込み三人が太い丸太棒を持ってきて、生きた人間を餅をつくようにポッタ、ポッタと打ち叩きました。彼は悲鳴をあげ、池の水を飲み、苦しまぎれに顔をあげるところをまた叩かれ、ついに殺されてしまいました。一団の人びとはかん声をあげて引きあげました。

 すると、また別の一団がきて、死んでいる彼を池から引きずり出し、かわるがわるまた丸太棒で打ち叩きました。肉は破れ、血は飛び散り、人間の形のなくなるほど打ち、叩きまた大声をあげて引きあげました」(三橋茂一「手記・関東大震災」)。

 恐怖に駆られ逃げ惑う一人の朝鮮人を群衆が罵しりながら追いまわし、餅でもつくようにポッタ、ポッタと打ち殺す。また、死んでいるのに池から引きずり出し、人間の形のなくなるほど打ちたたく。何がどうしたら、人間が集団的に鬼と化し、地獄相そのままに、人間を凌虐する群衆となるのであろうか。

 ▼東京月島の例

 「評議忽ち一決してこの鮮人の首は直に一刀の下に刎ね飛ばされた。かく捕へられた鮮人二十四人は十三人一塊りと十一人一塊りと二塊りにして針金で縛しあげ、鳶口で撲り殺して海へ投げ込んでしまったけれども、まだ息のあるものもあったので海中へ投入してから更に鳶口で頭を突き刺してたが、余り深く突き刺さって幾人もの鳶口がなかなか抜けなかった。また外に三人の鮮人は三号地にある石炭コークスの置場の石炭コークスが盛んに燃えている中へ生きているまま一縛に引縛って投げ込んで焼き殺してしまった。〜鮮人を縛して海に投じた時、見ていた巡査達は双手を挙げて万才を叫んだ」(みすず書房「関東大震災と朝鮮人」一七二頁)

 これは、東京月島での例である。20何人という朝鮮人を針金でしばり、とび口で撲り殺す。別に3人を石炭コークスの燃えている中へ、投げこみ殺している。見ていた巡査達が双手を挙げて万才を叫んだというから、美事な官民一致を実現していた。

 ▼東京・被服廠跡での例

 「被服廠跡地内のやや広い空間では、ひどい光景にぶつかった。十人くらいの人が、血だらけになった四人の朝鮮人を針金で縛って、一升びんの石油をぶっかけたかと思うとそれに火をつけたのである。燃え上がる火に、のたうちまわると、こんどは手にもった焼けぼっくいで抑えつける。そして目を血走らせて口々に叫ぶ。『こいつが俺たちの兄弟や親子を殺したのだ』」(浦辺政雄「手記・関東大震災」)。

 残虐極まる朝鮮人殺しをやっておいて、それを罪と思ってない、日本人民衆の姿がここにある。「こいつらが俺たちの兄弟や親子を殺したのだ」の叫びがそれである。朝鮮人殺しをやっている民衆は悪いことをやっているという罪の意識はなく、朝鮮人に親兄弟を殺されたから、そのお返しをしているのだ、という考えである。朝鮮人が暴動を起し、各地で放火、殺人を犯しているから戒厳令を布いた、という内務治安当局の意図が、日本民衆に正確に伝わっているのである。

 ▼埼玉県本庄での虐殺事件では、当時の本庄署員新井賢次郎氏の証言がある。

 「子供も沢山居たが、子供達は並べられて、親の見ている前で首をはねられ、そのあと親達をはりつけにしていた。生きている朝鮮人の腕をのこぎりでひいている奴もいた。それも途中までやっちゃあ、今度は他の朝鮮人をやるという状態で、その残酷さは見るに堪えなかった。後でおばあさんと娘がきて『自分の息子は東京でこやつらのために殺された』といって、死体の目玉を出刃包刀でくりぬいているのも見た」(「隠されていた歴史」)。

 埼玉県本庄での虐殺で、当時の本庄署員の証言は実に重い。その殺し方の残虐さも、身の毛がよだつが、おばあさんと娘が、「自分の息子は東京でこやつらのために殺された」と云って目玉をくりぬいた、というが、息子を朝鮮人に殺されたという意識そのものが、為政者の意図をそっくり体現したものである。(琴秉洞、朝・日近代史研究者=本稿が故人の遺稿となりました)

[朝鮮新報 2008.10.3]