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日本が進める新たな在留管理制度 外登証はなくなる!? 在日朝鮮人への影響は?

 外国人登録者は2005年に200万人を突破し、その後も毎年数万人ずつ増加している。今後さらに少子高齢化、人口減少が進む日本において、その経済規模を保つためにも労働力を外国人に依存するしかないという声は経済界に根強く、最近は政界からも盛んにそうした声が聞かれる。

 そんな中、現在、法務省ならびに総務省が来年の通常国会で入管法改定法案ならびに外国人台帳制度に関する法案を提出するための準備を進めている。

 その核となる内容は、昨年11月から行われている入国時の指紋採取と顔写真撮影と一体化したIC在留カードを従来の外国人登録証に代えて常時携帯させようというもので、それを通じて法務省による在留情報の一元的把握・管理が図られている。なお、この新制度施行に伴い、従来の外国人登録制度は廃止される方向で議論が進んでいる。

「特別永住者」の扱い

人権協会ではこの問題と関連し、11月15日にパネルディスカッションを行う。場所は東京芸術劇場大会議室で、14時〜16時30分。問い合わせは、人権協会(TEL 03・3837・2820)まで。

 さてこの新制度において、在日同胞の多くがこれにあたる「特別永住者」は外国人台帳に登録される(「適法な在留外国人台帳制度についての基本構想」。08.3、総務省、法務省)が、IC在留カードについては、外交官の家族や観光等で短期滞在している者たちと「特別永住者」は対象外とする方向となっている(「新たな在留管理制度に関する提言」。08.3、第5次出入国管理政策懇談会)。

 では、「特別永住者」は今後何らの身分証も常時携帯しなくてよくなるのかということが問題になるが、これについて法務省などは「検討中」だとして未だその考えを明らかにしていない。

 また、日本政府は再入国許可制度についても改定するとしている。政府はビジネスビザできている人にはその在留資格の期間内は再入国の許可なしに海外との往来ができるようにするという方向で考えているようだが、ならば在留資格の期限のない「特別永住者」や一般の「永住者」は再入国の許可なしに海外との往来ができるようにすればいいということになるはずだ。しかし、日本政府が許可なしの再入国を「特別永住者」や「永住者」に認めるかどうかについては全く楽観できない状況のようだ。

常時携帯義務、刑罰

 総連はじめ多くの民族団体や日本の市民団体などは、従来から日本に永住資格をもって暮らす在日朝鮮人に、外登証の常時携帯義務を課すことは人権侵害であると訴えてきた。同時に、外国人登録法上定められた義務違反行為の多くに刑罰規定があることの不当性も訴えてきた。1998年には、日本の状況を審査した国連・自由権規約(国際人権規約B規約)委員会が1993年にあった前回審査に続いて「外国人永住者が、登録証明書を常時携帯しないことを犯罪とし、刑事罰を科す外国人登録法は…廃止されるべきであると再度勧告する」と勧告した。

 そして、2000年4月からは「特別永住者」だけが対象だったが、常時携帯義務違反は刑罰から行政罰の「過料」となった。しかし、常時携帯義務自体はなくなりはしなかった。

 また、うっかり登録の切替交付申請を規定の30日間内にし忘れただけでも「一年以下の懲役若しくは禁錮又は20万円以下の罰金に処する」(第18条)とし、住所変更後14日以内にその届けをしなかった場合でも、「20万円以下の罰金に処する」(外国人登録法第18条の2第2項)といったように刑罰規定は他にも多数残っている。

 ちなみに、日本人が住所変更後14日以内にその届けをしなかった場合、「5万円以下の過料に処する」(住民基本台帳法第53条第2項)として行政罰を設けているに過ぎない。しかも「正当な理由がなくて」期間内に届けなかった場合に限定している。

 なお、この「正当な理由がなくて」といった断り書きは、外国人登録法全条文の中のどこにも存在しない。また切替交付申請自体、日本人の住民基本台帳制度にはなく、同じような生活実態を持つ「特別永住者」にまでこの切替制度を維持する合理的理由はないはずである。

再入国制度是正を

 また私たちは、日本への再入国について、それを権利として認めるのではなく法務省の裁量、つまりは胸先三寸で決められる許可制度を適用していること自体、人権侵害であり早急に是正されるべきであると訴えてきた。

 このことについても国連・自由権規約委員会は「日本で出生した在日朝鮮人の人々のような永住者に関して、出国前に再入国の許可を得る必要性をその法律から除去することを強く要請する」という勧告を日本政府に出している(1998年)。自国に帰る権利をその国の国民が保障されるのと同じように、その国に永住している人は永住国に帰る権利があるというのが自由権規約の考え方なのだ。

 同規約批准国の日本は、その条約遵守義務(憲法第98条2項「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」)を果たさなければならない。

 さらに、この再入国制度については最近毎年のように、駐日欧州委員会代表部から「日本の規制改革に関するEU提案」という形で意見が表明されている。

 その内容は、「すでに在留ビザを取得して日本に居住する外国人に対しては、日本の入国管理法は、どのような理由であっても、日本を一時的に離れるときは、本人が出発前に手数料を払って(3000円、または数次再入国許可の場合は6000円)再入国許可申請を行うことを求めている。EUは、この制度は余計な負担を強いるもので、他のほとんどの国では見られない特異なものと考えるため、速やかに廃止されることを要求する」(2005年)、「この在留資格の喪失が、なぜ永住資格を持った外国人に適用されるのか、また外国人の入国管理を有効に行うために、既存の数次ビザ制度でなぜ十分でないのか明らかでない。多くの外国人居住者にとって、頻繁な出張は仕事には不可欠な要素であり、再入国制度が迅速に廃止されることをEUは提案する」(2006年)、「EUは、この特異な制度は不必要な負担と、何よりも重複を意味すると考える」(2007年)と率直かつ辛辣である。

 実際、世界的に見ても南朝鮮や米国などでは、永住者が1年以内に再入国するなら出国時の再入国許可は必要なく、カナダでは永住者の「入国権」が認められている。

 仮に新制度に改編されるとしても、「特別永住者」らまで退去強制の対象としていることはたとえ一定の要件緩和がなされたとしても問題であり、また、国に収集される情報は最低限度であるべきで、日本国民に課される情報提供義務を超えて情報の提供を要求されることがないようにすべきといった問題がある。

 「特別永住者」に関するこれらの問題が今回の改編議論でしっかり討議されるべきであり、そしてその解決が図られるべきである。

「永住者」も同様に

 「永住者」は、文字通り日本での永住を認められたものであり、生活の根拠がどこにあるかなど、「特別永住者」とさして変わらない生活実態があると考えられる。

 また、「永住者」の中には解放前に渡日したが太平洋戦争末期に故郷に疎開し、解放(終戦)後まもなく再度渡日したような人たち(やその子孫)も少なからずいる(この場合、「特別永住者」の要件に該当しなくなり「永住者」までしか取得できない)。

 また、サンフランシスコ講和条約(平和条約)発効前に日本人の母から生まれた者が発効後、父親に認知され、それに伴い外国人登録上の「朝鮮」籍もしくは「韓国」籍になった場合も、条約発効時点で国籍を喪失(離脱)しなかった者として「特別永住者」になれない(この場合、父親が「特別永住者」であってもなれない)。さらには「特別永住者」と結婚し、「朝鮮」籍・「韓国」籍となった元日本人の妻も「特別永住者」になれない。

 このように、いわば一般の「特別永住者」よりさらに日本社会との結びつきが強いとも言える人たちが「特別永住」資格を持てないままとなっている場合もあるのだが、こういった人たちをはじめ「永住者」についてはできる限り「特別永住者」と同様の扱いを図っていくべきである。

人権擁護の施策を

 今回の制度改編に対し日本政府は、外国人にも「行政サービスが適切に提供されること」に資するためのものとしているが、その本質的な目的が「管理強化」にあることは論をまたない。

 日本政府は、外国人を「労働力」、そして「管理」の対象としてしか見てこなかったこれまでのあり方を根本的に転換し、在留資格に関わりなくすべての在日外国人の人権に配慮する形で、現行の入管制度に存在する人権上の問題点を改める方向で制度改編を進めるべきであり、決して「犯罪者対策」「治安管理」という名の下に、在日外国人のプライバシーや人としての尊厳を侵害するようなものとなってはならない。

 また、在留管理制度だけをどうこうするのではなく、民族教育権の保障や社会保障における差別の撤廃、差別禁止法の制定など在日外国人に対する人権保障のための法整備をしっかりと進めていくべきである。

 日本政府が新たな在留管理制度に向けた準備を進める中、私たちも当事者としてその動向をしっかり把握し、さらに声を上げていくことが必要であろう。(金東鶴、在日本朝鮮人人権協会事務局長)

[朝鮮新報 2008.10.22]