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〈論考F〉 危険な経済システム

米国発金融危機をどう見るか

 今年9月、全米第4位の大手リーマン・ブラザーズ・ホールディングス(LEH.N)の連邦破産法適用(日本の民事再生法に相当)、全米最大の保険会社AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)への850億ドル(約9兆円)の緊急融資と同社株約80%取得による事実上の政府管理に関する発表は、世界を震撼させた。08年1月、56ドルであったAIGの株価は3ドル台にまで暴落した。

 米金融市場のみならず日本において、日経平均株価が一時期バブル崩壊以降最安値の7000円台を切る水準まで暴落した。

 経済危機対策としてのストップ安、預金保護、世界的協調などの政策介入やセイフティネットが無かったら、1929年世界恐慌の再来となっていたかもしれない。

 欧州委員会は、先日の「秋季経済予測」でEUの2009年度の実質GDP成長率を0.2%と大幅に下方修正した。日本のソニーをはじめとする大企業も企業収益がほぼ半減すると予測している。

 金融危機の実態経済への悪影響が表面化し始めている。

 今回の金融危機は、米国の「サブプライム危機」に端を発する資産、金融市場における危機問題、米国発世界金融危機への伝播問題だといえる。

1929年との違い

 ここまでは、情報過多のインターネット文化が定着した現在では研究者でなくても容易に調べられる。大切なことは、今回の危機と1929年の世界金融危機との違いに着目することだ。

 相違点は第一に、莫大な資金が地球規模で瞬時に移動するようになったということ。

 少し学術的に言い換えれば、金融のグローバリゼーションと過剰流動性問題だ。

 米国のGDPの70%に相当する10兆ドルが米住宅融資に向かい、GDP総額の15%に相当する外資が流入している。問題になった不動産担保証券等の保証業務を行っている連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)、連邦抵当住宅金庫(ファニーメイ)の総資産は、米GDPの約半分、日本円にして700兆円にもなる。証券化まで含めると大変な金額が動いていることになり、証券市場が非常に限定的だった過去とは比べ物にならない。

 第二に、不動産融資が様々な証券に形を変え、様々なファンドに組み込まれ、安全な商品として全世界に売り飛ばされたということ。

 これも学術的に言えば、@重層的証券化、AファンドとCDS(クレジットデフォルトスワップ=金融商品に対する保険のようなもの)による「リスク変換」問題だ。

 米国では貸し倒れが比較的少ない不動産担保融資や自動車ローンは証券化を通して売られ、その規模は年々肥大化している。また、AIGに代表されるような金融商品の保険ビジネスが台頭し、従来では危険で手が出せなかったような証券でも格付けが変更され売買されるようになったのだ。危険な証券が安全な証券のように世界的に売買されている訳だ。

 21世紀の金融の自由化、グローバル化は、前資本主義制度よりもさらに危険な経済システムを作り上げたのであり、金融工学は皮肉にも薄氷の上を歩くような道筋を示す結果となったということを米国発金融危機から学ぶべきだ。(呉民学、朝鮮大学校政治経済学部教授)

アメリカ発金融危機のメカニズム(図)

[朝鮮新報 2008.11.10]