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日弁連勧告 税制、学習権に言及、「意義大きい」

広範な運動で勧告の具現を

 朝鮮学校など一部の外国人学校が税制上の優遇措置の適用対象から除外されている問題で、日本弁護士連合会(日弁連、平山正剛会長)は3月24日、「生徒の学習権を侵害する」として日本政府に改善を勧告した。朝鮮学校生徒・卒業生の大学・専門学校入学試験受験資格についても、個別審査によらない一律の付与を勧告した。朝鮮学校について言及した日弁連の勧告は、98年2月20日に続くもの。

 日弁連は2006年3月、東京朝鮮学園、神奈川朝鮮学園、横浜山手中華学園と保護者の会から人権救済の申し立てを受け、調査を進めてきた。

朝鮮学校を冷遇

記者会見する日弁連の関係者ら(3月26日、弁護士会館)

 日本の国庫からの補助がなく自治体からの補助も極端に少ない朝鮮学校や中華学校は、学校運営資金の多くを保護者や支援者の寄付に頼っている。

 しかし日本政府は、所得控除や損金扱いなどで寄付行為を優遇する税制上の措置を、欧米系の一部の外国人学校に対して認めながらも朝鮮学校や中華学校については認めていない。

 生徒の在留資格などを基準に、短期滞在者の子どもが主に通う欧米系の外国人学校を優遇する一方、在日朝鮮人など日本に根ざして暮らす永住者の子どもが主に通うアジア系の民族学校を冷遇しているのだ。

 また受験資格問題では、朝鮮学校の生徒・卒業生が日本の大学・専門学校を受験する場合、受験の可否を各大学が個別に判断することになっている。受験を認めない大学も一部に残っている。

 これらの問題については、訪日調査を行った国連人権理事会のドゥドゥ・ディエン特別報告官も、朝鮮学校と他の外国人学校との間にある「人種差別とみなすことのできる処遇の違い」を是正するよう勧告している。

「朝鮮学校にこそ適用を」

 朝鮮学校について言及された日弁連の勧告は98年2月に続くもの。今回の勧告について、申立人代理人の李春熙弁護士は、「税制上の処遇問題に初めて言及した意義は大きい」と指摘する。

 朝鮮学校の運営や学習権の侵害状況について調査も行った李弁護士は、勧告書とともに公表された日弁連の調査報告書が、「指定寄付金制度の適用は、むしろ寄付金依存の経営とならざるをえない中華学校や朝鮮学校にこそ積極的に行われるべき」と明記していることを評価する。税制上の優遇措置から排除することで「学校経営を困難にし、学校の教育を行う自由、児童・生徒の学習権を侵害するという形で権利侵害と不利益を発生させる」(調査報告書)からだ。

 また、学習権について言及された意義も大きい。

 学習権とは、教育を受ける権利。日本国憲法26条1項は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と定めている。調査報告書は、これらは国際人権諸規約・条約に鑑みて、「日本に在留する外国籍の子どもに対しても保障されている」と指摘している。

 李弁護士は、「勧告には法的拘束力はない。今後は勧告の内容を実現させるため運動を広げていくことが必要だ」と指摘する。

 今回の申し立てには朝鮮学校とともに中華学校が加わっている。つまり、外国人学校全体の問題としての広がりがある。現在、各地に南米系の学校も増えるなか、朝鮮学校や中華学校の権利拡充は外国人学校全体の地位の底上げにつながるという。

民族教育権、再考必要

 在日朝鮮人の歴史問題に詳しい研究者は、「4.24教育闘争60周年を迎えようとするこの時期に、学校経営に関わる問題で勧告がでたことに記念碑的な意義を感じる」と語る。

 総連弾圧や在日朝鮮人に対する人権侵害が深刻化するなか、民族教育に対する風当たりも例外なく厳しい。東京朝鮮第2初級学校や大阪朝鮮高級学校の土地問題などで民族教育の権利が法廷で問われてもいる。

 一方で、山口県は朝鮮学校に対する教育補助金の増額を決めた。呉市は補助金廃止方針を撤回した。在日朝鮮人と日本人が力を合わせて勝ち取ったものだ。

 「在日朝鮮人であれ日本人であれ、もう一度原点に立ち戻って民族教育について考え直す必要がある。教育闘争60周年はその良い機会であり、日弁連の勧告はそこでの一つの指針となるだろう」

 今回の勧告をどのように活かし運動を広げるのか、広範な論議が必要だ。(李泰鎬記者)

※勧告書(内閣総理大臣、文部科学大臣、財務大臣宛ての3通)と調査報告書全文(PDF)

●用語解説

 ※1「指定寄付金」制度 法人や団体への寄付金(例えば校舎増築などへの寄付金)について、所得控除や損金扱いされることで寄付行為が優遇される制度。大蔵省告示154号(1965年4月30日)は、「各種学校」への寄付行為についても対象になるとしており、実際、いくつかのアメリカンスクールやインターナショナルスクールの校舎建設などに対して適用された。だが、文部科学省は同じ「各種学校」の朝鮮学校、中華学校について認めなかった。

 ※2「特定公益増進法人」 教育、科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献など、その活動の公益性が高いと認められる法人。一般の学校や専修学校を経営する学校法人などが指定されており、認定された法人への寄付は控除、損金扱いとなる。2003年度から「初等教育又は中等教育を外国語により施す各種学校」も含まれるようになったが、文部科学省告示第59号(2003年3月31日)において設けられた2つの要件−@「外交」「公用」「家族滞在」の在留資格を持つ子どもたちを対象にした学校であること、A教育活動について欧米の国際評価機関による認定を受けること−により、アジア系の民族学校は軒並み排除された。

 ※3 朝鮮学校生徒・卒業者の日本の大学・専門学校への入学試験受験資格 文部科学省の省令等改正(2003年)により外国人学校、民族学校生徒・卒業生に受験資格が与えられたが、朝鮮学校卒者には各大学、専門学校による個別の入学試験受験資格審査が課せられた。受験者や学校側に負担が課せられたままとなっていたが、そのうえ、個別審査すら拒否する大学、専門学校もある。省令改正で設けられた「国際評価機関による認定」「公的な確認」「個別審査」といったものがあいまいで、現場に正確に行き渡っておらず、新たな差別と人権侵害を生んでいる。

 ※4 日弁連1998年2月20日付勧告書 朝鮮学校をはじめとしたいわゆるインターナショナルスクールなど、日本に在住する外国人の自国語ないし自己の国及び民族の文化を保持しながら教育活動を行う機関について、学校教育法が定める教育機関としての資格を認めず、また、私学助成制度の上でも不平等な取り扱いを受けていることにつき、児童・生徒などに対する人権侵害を認めるとともに、子どもの権利条約などの関係条約違反の状態が続いているとして、政府に対し、その是正を求めた勧告。(日弁連のホームページから)

〈解説〉 今回の日弁連勧告について

[朝鮮新報 2008.3.31]