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「コリアン学生学術文化フェスティバル07」発表論文 「学校保健、朝鮮学校の現状〜京都の事例をもとに」

ボランティア頼りの健康診断

 昨年、朝鮮大学校(東京都小平市)で開かれた「コリアン学生学術文化フェスティバル2007」で発表された、KS医療・福祉ネットワーク京都のグループ論文「朝鮮学校の学校保健における実践的な取り組みについて〜京都の事例をもとに」の要旨を3回にわたって掲載する。執筆に当たったのは、池祥恵さん(京都薬科大学薬学部薬学科4回生)、李映叡さん(龍谷大学社会学部地域福祉学科3回生)、崔伶雅さん(同志社大学社会学部社会福祉学科2回生)の3人(学年は発表時のまま)。

はじめに

学習会「ウリハッキョの学校保健を考える」のオープニングの様子

 朝鮮学校は、在日朝鮮人が子どもたちに民族教育を行い、民族の心、歴史・文化を継承し発展させたいという願いにより設立され、昨年で民族教育60周年という節目を迎えた。その間、弾圧や閉鎖などの多くの困難に直面しながらも、同胞達の手により民族教育は守られてきた。そして昨今では、2003年に国公立大学受験資格が認められ、民族教育に関する権利を多く獲得してきた。しかし、学校教育法第83条の各種学校と位置付けられ、教育助成など児童生徒への制度的な処遇に、今なお多くの問題を抱えている。

 学校保健もその問題の一つとして挙げられる。2000年に在日朝鮮学校中央保健委員会による、民族教育史上初めての「朝鮮学校保健活動規定」が制定され、2001年度4月より施行されたものの、6年が経った今でも朝鮮学校の学校保健を取り巻く状況には多くの問題が残されている。朝鮮学校の学校保健を、なんとかして整え、生徒や教員、保護者の安心できるものにしていきたいと思い、論文を書くに至った。

学校保健とは

 学校保健とは、文部科学省設置法第5条によって「学校における保健教育及び保健管理をいう」と定められている。保健教育は学校教育法(1974年制定)に基づいた教育活動であり、保健学習と保健指導に大別される。一方、保健管理は学校保健法(1958年制定)に基づいている。そして、学生、生徒、児童及び幼児ならびに職員の健康の保持増進を図り、学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資することを目的としており、法令上、学校衛生環境、健康診断、伝染病予防のことをいう。

 日本での学校保健の歴史は明治5年の学制発布と同時に始まったとされている。その後明治31年の学校医制度の実施によって学校衛生の基礎が成立し、昭和33年には学校保健法が制定された。

朝鮮学校の現状

 朝鮮学校は制度的な理由から、学校保健を取り巻く多くの問題を抱えている。ここでは、保健室、定期健康診断、助成金をめぐる問題について取り上げる。

 保健室の問題

 まず、大部分の朝鮮学校は「保健室」がないという問題を抱えている。そのため、体調の悪くなった生徒を休ませる場所がなく、ケガをした際も適切な処置を行えていない。専門知識を持った養護教諭がいないことも大きな悩みとなっている。養護教諭とは、日本学校では保健室の先生とも呼ばれている。通常、保健室などに常駐し、学校内における生徒や教職員のケガ・疾病等の応急処置を行い、医療機関受診の必要の有無を判断している。そのほかにも、健康診断、水質検査・照度検査・空気検査などの諸検査、保健衛生知識の普及啓発教育や、学校保健に関する業務の計画や実施も行っている。

 今、朝鮮学校に養護教諭を配置しようとするのは大変難しい。養護教諭になるためには、教職課程を履修して、教育職員免許状を持たなければならない。そのため朝鮮大学校には、養護教諭の資格を取得できるコースを作ることが難しく、適当な人材を見つけ出すのに、まず苦労するであろう。適当な養護教諭が見つかったとしても、朝鮮学校は一条校に比べて助成金の額が少ないため、厳しい財政上の困難に直面する。ボランティアとして働く場合も、今後の保健活動を定着させ、代を継いで維持させることを考えると、いろいろな問題が生じてくる。例えば、その教諭が都合により職を離れなければならなくなったとき、代わりの人を見つけ出すのが大変難しくなってくるなどの問題である。

 障がいのある児童や慢性疾患を患っている児童への適切な対応や教育も問題である。保護者にとって、児童を自分の目の届かない学校へ通わせるだけでも大きな不安を伴うが、保健室が十分に機能していない学校に通わせるのは、よりいっそう大きな不安を伴う。最近では、心に悩みやストレスを抱えた児童も増えてきており、不登校の児童が朝鮮学校でも見られるようになってきている。

 定期健康診断の問題

 健康診断は児童の健康を守る重要なものとなっている。日本学校では一般に、近隣の開業医などに学校医を嘱託しており、健康診断なども学校医を中心に行われている。そして、この学校医に対する手当や健康診断に要する費用は、全て行政が負担しており、公立学校の場合は、学校医が公務中にケガをした際のための公務災害補償の制度まで整っている。

 京都における日本学校の学校医の場合、基本給として年額21万9000円が支給され、そのほかにも960円×生徒・教職員数(年額)、5400円×出校日(年額)が支給される。しかし朝鮮学校では在日本朝鮮人医学協会の同胞医師たちが、全くのボランティアで健康診断を行っている。健康診断をしている間、普段の病院での仕事は休まなければならず、それに対する補償はもちろん無い。現在、京都では4人の同胞医が朝鮮学校を担当し、歯科検診は2人の同胞歯科医と、数人の日本の歯科医によって行われている。初めて朝鮮学校で身体検査が行われるようになったのは1970年代からで、始めた当初よりもその水準は上がってきてはいるが、地方によっては人手が足りず、カバーしきれていない学校もあり、内容や水準も地域によってまちまちなのが現状である。児童の健康診断が全く行えていない学校が存在するという問題も、早急に解決されなければならない。そしてさらに、教員たちの健康診断が行われていない学校があるのも深刻な問題である。

 朝鮮学校はさまざまな制度から排除されており、一条校と分け隔てない対応が求められる。

 助成金の現状

 朝鮮学校に対する助成金額は、日本の公立、私立学校と比べ、極めて少ない。

 京都にある朝鮮学校は、京都府からは「私立専修各種学校教育振興補助金」、京都市からは「民族教育に対する補助金」という形で、助成金が支給されている。しかし、その額は京都の私立学校と比べ、およそ6分の1に過ぎず、公立学校と比べても10分の1に過ぎない。このことから見ても、朝鮮学校がいかに厳しい財政状況に置かれているのかがわかる。

 また2003年度より、京都市教育委員会は、「保健衛生費」を「教材費」「授業費」など他の予算と一緒に「合算執行」するという方法に変えた。そのため京都市は、朝鮮学校の助成金には、日本学校と同様に保健衛生費が含まれていると主張している。しかし、現在の公私立学校における健康診断費、学校医に対する費用、保健室とその維持に要する費用と照らしてみても、京都の朝鮮学校に対する現行の助成金額の中に学校保健費用が含まれているとは到底考えられない。朝鮮学校において学校保健事業を行なっていくためには、学校保健を対象とした、別枠の予算で組まれた助成金が必要である。

[朝鮮新報 2008.3.19]