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〈教室で〉 東北初中高 中級部 国語 金順実先生

「初級部のハードル超えよう」 豊かな朝鮮語の習得を目指す

 言葉はすべての知的活動の基礎となる。数学でも、理科でも、新しい概念を人は言葉で表現、理解し、知識を習得していく。また言葉には民族の文化と伝統、情緒がそのまま込められている。

「朝鮮語」の達人に

生徒一人ひとりを大切に指導する

 東北朝鮮初中高級学校(宮城県仙台市)中級部で国語(朝鮮語)を教える金順実先生(25)は、生徒たちが豊かな朝鮮語で日常会話ができるようにするため日々情熱を傾けている。

 「こんにち朝鮮学校に対し、子どもたちを魅力的な朝鮮人に育ててほしいとの要望が高まっている。保護者たちは、朝鮮語を流暢に話せるようになってもらいたいと、子どもたちを厳しい状況の中、朝鮮学校に通わせている。しかし、残念ながら生徒たちの実態は、周囲の期待に応えるものにはなっていない。わが校の中学生が日常的に使う朝鮮語の語彙数は、初級部低学年のときに学んだ水準を大きく上回ることができず、平均300語程度で会話をしていると思う」

 朝鮮大学校教育学部(東京都小平市)孟福実助教授の話によると、朝鮮学校の児童・生徒が習得する朝鮮語の教育語彙数は、初級部で約6千、中級部で約3千、高級部で約3千語になるという。

 子どもたちの語彙習得問題に頭をかかえているのは金先生だけではない。日本の中・高校で「国語」を担当する教員たちは、彼らが約100〜200語くらいの語彙で会話していることに悩んでいる。

 幼いときからテレビやコンピュータゲームなどに慣れ親しんできた「映像世代」は、前の世代に比べて読解力が大幅に落ちると言われている。朝鮮学校生徒たちの場合、それに加えて異国で母国語を学ぶ特殊性から、朝鮮語の語彙数を初級部の水準から一段上げるためにかかる労力は、日本の生徒のそれをさらに上回ることになる。

 それでも金先生は前向きだ。「世代が変わりいくら条件が厳しくなっても、南武朝鮮初級学校(神奈川)では、全校児童を『朝鮮語の達人』に育てている。南武初級にできて私たちにできないことはない。南武初級を目標に、わが校生徒の朝鮮語の能力を高めていきたい」と熱い胸のうちを語った。

 どうすれば生徒たちの語彙数を伸ばし、より豊かな朝鮮語の表現を使わせることができるのか。金先生は生徒たちが教材で学んだ言葉の意味を正確に理解し、実生活で使えるようにするため研究を深めた。

いろんな方法

「金順実先生は、体は小さいが、情熱的に教えてくれる」と生徒たち

 まず初めに行ったのが「語彙解釈プリント」。語彙の使い方を正確に知るため、プリントに語彙、品詞、漢字、意味、日本語訳を一覧化し、生徒たちに例文の欄に新しい語彙が入った簡単な文章を作らせた。すると、試験の時に「当てはまる言葉を()の中に入れなさい」という質問の答えをほとんどの生徒が間違わなくなった。手応えを感じた金先生。

 しかし、この方法には問題があった。生徒たちが作った文章の中からへんてこなものが出てきたのだ。原因は、「語彙解釈プリント」に日本語訳を入れたことにあった。生徒たちは新たに学んだ単語の朝鮮語の解釈を無視して、日本語訳のみを見たため語意を正確に理解していなかったのである。

 問題の文章は次の通り。《멍멍하다》は「音がよく聞こえず、耳の中が響きぼうっとする」という意味。日本語では「ぼうっとしている」。生徒は「眠くてぼうっとした」と文を綴った。

 金先生はこの教訓をいかして語彙解釈プリントから日本語訳をなくし、新しい語彙が入った文章を教材から抜粋する「教材での使い方」という欄を新たに設けた。また、「作文練習帳」を作り、4〜5個の新しい単語を入れた空想日記や物語り、対話文を作らせた。

 新方法導入後、試験で単語の意味を書く問題で回答を完全放棄する生徒が1人もいなくなり、70%以上が正解、毎回全問正解者が一昨年度には20%だったのが、昨年度には46%に大幅に増えた。

実績を積む

「温達伝」のまとめの授業。生徒たちに紙芝居で発表させた(中2)

 新方法導入は、朝鮮語の習得には大きな成果をもたらした。しかし、それらの単語を日常生活で使えるようになるまではまだまだだった。「初級部のハードルを超えるため」金先生は、中学生たちの「演劇活動」を定例化した。理由は、「新しく学んだ言葉を使って会話をする照れくささをなくすため」。新しい単語を積極的に使う環境を作れば、生徒たちは使い慣れない言葉でも口にするようになる。それらは次第に日常生活の中でも使われるようになり、効果を発揮していった。

 金先生のたゆまない努力と研究によって生徒たちの朝鮮語の能力は着実に伸びている。同校は昨年「コッソンイ」作文コンクールの中1散文部門で1、2位、中3韻文部門で1、3位を受賞、中央口演大会東日本地方大会では、中級部の演劇が金賞に選ばれた。同部門金賞は一昨年に継ぐ2度目である。今後の「記録更新」が期待される。(金潤順記者)

※1982年生まれ。東北朝鮮初中高級学校、朝鮮大学校文学歴史学部卒業。東北初中高・中級部 国語担当、中1担任、中高・舞踊部指導教員。2007学年度「東日本地方教育研究集会」模範教授者、論文賞受賞。

[朝鮮新報 2008.5.23]