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〈教室で〉 栃木初中 初級部 2・3年担任 金弘己先生

「母校の還暦(60周年)を輝かせたい」 複式授業、スクールバスの運転も

 栃木朝鮮初中級学校(栃木県小山市)の金弘己先生(39)は、今年から初級部2年生と3年生の2つのクラスを受け持っている。2年生5人(男児4人、女児1人)、3年生2人(男児のみ)。45分間の授業中、金先生は2つの教室を行ったり来たりしながら、算数の授業をこなしていた。

2年生の授業

朝から夜まで多忙な一日を送る金先生

 2年生の授業内容は「足し算」。黒板には、「赤い花が26輪、黄色い花が28輪、白い花が39輪咲きました。全部でいくつ咲きましたか?」との質問が貼り付けられている。

 金先生は児童たちに「数式はどうなりますか?」と質問する。「はいっ!」という元気な声とともに、全員の手がいっせいに上がった。

 「26+28+39です!」

 2年生たちは前の授業で2桁の足し算を学んだ。「これをどうやって計算しようか?」と金先生。まずは、赤い花と黄色い花の数を足してみる。「26+28」。縦に並べられた数字を見て、児童たちは「はいっ! はいっ!」と、われ先に手を上げる。

 「まず、1の位から。6+8は?」

 「14!」

 「10の位に1つ繰り上がって、2+2+1は?」

 「5!」「5!」「5〜!!」

 「答えは?」

「はいっ!」と元気に手をあげる2年生たち

 「54ですっ!」

 赤と黄色の花の合計54に、白い花の数39を足せば、全部の花の数になる。

 「54+39=93」。

 金先生は、「2つの足し算をして合計を出す方法のほかに、今日は、これを1つの式にして2桁の数3つを計算する方法を学びます」と説明した。黒板に「26」「28」「39」と数字を縦に並べて書き、一番下の数字の左側に「+」、そして下線を引いた。

 「では、6+8+9は?」

 「23です!」

 「10の位に2つ繰り上がって、2+2+3+2は?」

 「9!」

 「全部の花の合計はいくつになりましたか?」

 「93です!」

 計算の仕方がわかったところで、2年生には他の計算問題の課題を与え、金先生は3年生の教室へ。

3年生の授業

3年生は授業に集中

 「17×1=17、17×2=34、17×3=51、17×4=…」

 金先生を待つ3年生の教室からは、九九を17段まで数える児童たちの声が聞こえていた。

 3年生の授業内容は「割り算」。

 黒板には12個の赤いマグネットが貼りついている。「いつくありますか?」。金先生の問いに児童らは、「12個です」と答えた。「はやいなぁ、どうしてわかったのかな? 1つずつ数えたのかい? それとも他の方法で?」

 「横が4つ、縦が3つだから、4×3で12です!」と元気に答える児童たち。

 金先生は黒板に4つの囲いを描き、12個のマグネットを「4人に均等に」分けることを指示した。そして、「これを数式で示したのが割り算だ」と教えた。

現場を守る

 全校生34人。初級部1年と4年、中級部3年を除く、初級部2・3年と5・6年、そして中級部1・2年が今年から複式学級となった。教員数は8人。校長、教務主任(特別支援教育担当)を除き全ての教員が6つのクラスを受け持っている。

 「いろんな事情があって、教員数を増やせなかった。保護者からは、大丈夫か? 授業はちゃんと進められるのか? との不安の声も寄せられた。でも、やるしかない、投げ出すことはできないじゃないですか。教員たちはみんな、歯を食いしばって現場を守っている」

 子どもたちの前では笑顔を絶やさなかった金先生の顔には悲壮感すら漂っている。

 「母校の東京第8も第7も、児童数の減少から統廃合された。栃木初中は僕にとって3番目の母校。守りたい気持ちは誰よりも強い」

 祖父は元教育会の専従職員、幼い頃亡くなった父親は教員、叔父そして叔母もまた教員という家庭環境で育った金先生は、祖父と父の意志を継いで教員になる決意をしたと言う。

 授業だけではない。

 1人で何役もこなす多忙な生活。スクールバス運行のため大型免許を取得し、朝夕、学校と駅、児童・生徒の家を約1時間かけて3往復する。利用者は29人。大型免許取得者は金先生1人のため、体調を崩すことも許されない。

 昨年、同校は創立50周年を迎えた。金先生は当面の目標を、「学校創立60周年(還暦)を輝かせること」だと語った。「教員生活19年、僕を育ててくれた家族、親せき、先生、友人、同胞たちの心に報いたい。そして、子どもたちにもこの思いを伝えたい」。

 取材を終えて帰路に向う途中、下校する子どもたちと一緒にスクールバスに乗った。子どもたちは「先生、先生」とこの日あった出来事を楽しそうに話していた。

 10年後、20歳になっているであろう初級部4年生のある少女は、「私の夢はケーキ屋さんになること。将来、おいしいケーキを作って、学校の還暦祝いに参加するの。金弘己先生にもぜひ、食べてもらいたい」とうれしそうに話していた。(金潤順記者)

※1968年生まれ。東京朝鮮第8初級学校、東京朝鮮第7初中級学校(中1まで)、栃木朝鮮初中級学校(中級部)、茨城朝鮮初中高級学校(高級部)、朝鮮大学校3年制師範教育学部(当時)卒業。栃木初中、群馬初中で教鞭をとる。現在、栃木初中初級部2・3年担任。東日本教研初級部児童教養分科長、1992学年度模範教授者、2001年低学年少年団教養分科論文賞受賞。

[朝鮮新報 2008.6.13]