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2カ月遅れの「テロ支援国」リスト削除、朝米妥結の経緯

「一方的武装解除要求」の撤回

 米国務省は11日(現地時間)、朝鮮を「テロ支援国」リストから削除すると発表した。

 米国の行動措置は、約束された期日より約2カ月遅れて講じられた。合意履行に障害をもたらした核申告書の検証をめぐる問題で、朝鮮は「行動対行動」の原則を貫き、米国は「交戦相手を一方的に武装解除しようとする要求」(朝鮮外務省スポークスマン)を撤回した。

想定外の問題

表1        10.3合意の骨子
朝鮮
・核施設の無力化
・核計画申告
米国
・「テロ支援国」リスト削除
・敵性国通商法の適用終了

5者
・重油100万トン相当の経済・エネルギー支援

※6者、朝米間の合意に核申告検証問題をリスト削除の条件にするという条項はない
表2 核申告書検証に対する朝鮮の立場(外務省の立場表明)
 核申告書検証に協力する用意はあるが、「行動対行動」原則が遵守されなければならない(7月4日)

 (米国が「テロ支援国」リスト削除を保留、「国際的基準」に沿った検証を要求)
 「国際的基準」要求は、1990年代に朝鮮のNPT脱退を招いた「特別査察」と同じもの(8月26日)
 6者、朝米間に「国際的基準」に関する合意はない(9月20日)

 (米国が要求撤回、リスト削除を発表)
 10.3合意の完全な履行を前提に核無力化対象に対する検証に協力する(10月12日)

表3          2ヶ月間の経緯

6月26日

米国が「テロ支援国」リスト削除プロセスの開始を発表
朝鮮、核計画申告書を提出

7月10〜13日

6者会談・団長会議(北京)
「非核化検証システム」と「6者公約履行監視システム」の樹立で合意(朝鮮半島非核化の「最終段階」で6者すべてに該当する「検証」を想定した合意)

8月11日

米国が「テロ支援国」リスト削除の効力発生を延期

26日

朝鮮外務省スポークスマン声明、▼核施設の無力化作業中断▼核施設の現状復旧を「考慮」

9月20日

朝鮮外務省スポークスマン談話、▼復旧作業が行われていると表明

10月1〜3日

米国務次官補が訪朝し朴宜春外相、金桂官外務次官、朝鮮人民軍板門店代表部の李賛福代表と面談

11日

米国、「テロ支援国」リスト削除を発表

12日

朝鮮外務省スポークスマン、▼米国の公約履行を歓迎▼核施設無力化対象に対する検証に協力する立場表明

 非核化第2段階の行動措置を定めた10.3合意の骨子は「朝鮮の核施設無力化と核申告書提出」対「米国を含めた5者の政治経済的補償」である(表1参照)。6者の合意は、あくまでも核申告書の「提出」であり、それに関する検証問題は10.3合意に明記されていない。

 朝鮮側は10.3合意の履行が完結すれば、検証問題にも着手する方針を立てていたようだ。しかし米国は核申告書に対する検証方法が合意できなければ、「テロ支援国」リスト削除を行わないと態度を豹変させた。そればかりか、6者や朝米間で合意されたこともない「国際的基準」に沿った検証を要求した(表2参照)。

 「国際的基準」の要求には、朝鮮との関係改善に反対する米国内の強硬派の主張が反映されている。残り任期が数カ月となったブッシュ政権は、強硬派の声を代弁した。

 朝鮮側に対して国内のあらゆる場所に立ち入る権限を持ち、サンプル採取や測定などを行えるような「査察」を強要した。朝鮮側は、米国側の要求を「国家の自主権に対する侵害」と断定し、10.3合意に定められた核施設無力化作業を中断、寧辺核施設の復旧を始めた。

 6者合意による非核化のプロセスは「段階論」に基づいている。7月の6者会談団長会議で「検証・監視システム」が合意されたが、それは、朝鮮半島の非核化が実現する「最終段階」で6者会談のすべての参加国に該当する検証を実現するためのシステムとして想定されたものだ。現在の非核化第2段階(核施設無力化段階)には適用されない。

 今回のように、米国が「段階論」を無視し、「国際的基準」の名目で、相手国の核抑止力の実態を明らかにする検証を主張するならば、朝鮮側も「行動対行動」原則に沿って反論することが可能だ。例えば、南朝鮮とその周辺地域において、米国の核兵器の有無を確認するための検証を行うと主張できるだろう。

 もちろん、現時点では、このような「相互検証」は現実的ではない。結局、朝米は非核化の現段階に符合する検証方法で合意した。すなわち朝鮮の「核施設無力化対象に対する検証」である。合意に基づき米国は「テロ支援国」リスト削除を行い、朝鮮は検証に対する協力を表明した(表3参照)。

強硬対応の帰結

 今回の合意について米国内の強硬派は内容が不十分であり、ブッシュ政権が一方的に「譲歩」したと反発した。日本のメディアも、まるで「国際的基準」に沿った検証が6者の合意事項であったかのように事実をわい曲し、朝米合意は「北朝鮮のごね得」だと、ピントはずれな解説を行った。

 実際のところ、米国の方針転換は正当な主張で「譲歩」したのではなく、6者合意に基づけば、はじめから実現不可能であった検証要求を取り下げたものだ。一方、朝鮮側は10.3合意履行が完結する前に検証方法を取りまとめる雅量を見せた。

 米国の不当な検証要求に対して、朝鮮は一貫して強硬姿勢で臨んだ。寧辺核施設の復旧作業が続けば、朝米関係は6者合意以前の状況、朝鮮の地下核実験当時の対決構図に戻り、6者の枠組みが崩壊の危機に直面したであろう。

 ヒル米国務次官補の訪朝(1〜3日)はブッシュ政権にとって、平和的な問題解決の最後のチャンスであった。朝鮮側は「対話」と「対決」の二者択一を迫る最後通牒を突きつけたに違いない。ヒル次官補が帰国して数日後、米国は「テロ支援国」リスト削除を発表した。原則を譲ることのない朝鮮の確固たる姿勢によって、非核化プロセスの障害を取り除く妥結点が見出された。(金志永記者)

[朝鮮新報 2008.10.17]