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拉致問題 再調査で試される福田政権

平壌宣言に基づく外交の復活を

 【瀋陽発=金志永記者】今回の朝・日政府間実務会談は、日本が対朝鮮外交の方向を修正する最後の機会になるかもしれない。朝鮮が表明した拉致問題の再調査を朝・日間の長い膠着状態を打開する突破口につなげることができるのかどうかは結局、日本側の政治的決断と行動にかかっている。与えられた機会を逃せば、6者会談の進展などで新たな構図が生まれつつある東北アジア政治の舞台で日本の立場はさらに弱まっていくしかない。

「パンドラの箱」

 近年、朝・日政府間会談は断続的に行われてきたが、日本は拉致問題にこだわるあまり、正常な外交を展開できなかった。平壌宣言という里程標がつくられたにもかかわらず、半世紀が過ぎても国交さえ結ぶことができていない両者の非正常な関係を、いかに再定立するかという本来のテーマを論じてこれなかった。何よりも朝・日関係の改善に反対する勢力が拉致問題を口実にして協議進展にブレーキをかけた。また政治家と外務官僚には、平壌宣言履行の環境を自ら作り出す意志や能力が欠けていた。

 安倍前政権は拉致問題を朝鮮に対する対決強硬策の口実として利用した。朝・日関係を悪化させて平壌宣言の履行から目をそらすために使われた拉致問題は、安倍前政権にとって引き続き手中に収めておくべきカードのようなものだった。

 6月、6者会談10.3合意によって朝米が同時行動措置を取るという情勢の転換の局面で、日本は朝鮮側に「拉致再調査」を求め、同意を得た。国民には日本の主張が貫徹されたと説明したが、実際には福田政権が「パンドラの箱」を開いて日本の退路を自ら絶ったようなものだ。

 これからは朝鮮に対する強硬一辺倒の政策に固執できず、拉致問題の「決着点」を定め、それを国民に示さなければならなくなった。

「遅延戦術」

 「再調査」は04年にも行われた。当時日本は朝鮮に対する対決政策を撤回する考えはなく、「偽遺骨」説をねつ造。世論の反発を人為的に起こして相手方に責任転嫁する方法で事実をねじ曲げた。

 今回、2度目の「再調査」が行われる以上、福田政権としても前政権と同じ轍を踏むのは許されないだろう。朝・日政府間実務会談の場でも、そのための脚色と演出が必要だった。表面上は日本が「再調査」に対する朝鮮側の「誠意」を見極めようとしているように見えるものの、実際は会談に臨む日本の外交官らが、国内の保守右翼勢力と拉致問題で硬直した世論をまっ先に考慮しなければならない状況にあった。

 日本政府は今回の会談に先立って、朝鮮側が実施する「再調査」の進ちょく状況を随時点検する枠組みをつくるという自身の「方針」をマスコミにリークした。「北朝鮮側が不十分な調査で決着をつけることを阻む」(日本経済新聞)という政府の立場をアピールするもので、国内向けの広報という性格が強い。政府が世論の動向に神経をとがらせながら、無難な措置を積み重ねていくしかない日本の現在の状況を表す出来事だ。

 しかし、慎重に一歩ずつ歩んだとしても、落とし穴に落ちない保証はない。

 点検を通じて「再調査」の「実効性」を追求すると言う日本の主張と要求が、拉致問題の決着を引き延ばすための「遅延戦術」ならば、福田政権はすでに交渉における戦術を誤ったといえる。朝・日会談が行われるたびに、反撃の機会を狙っている保守右翼勢力は、今後も世論に縛られ主導権を発揮することができない政権の弱い姿勢を見過さないだろう。

大局的見地の必要性

 福田政権がとりうる選択肢はそれほど多くはない。成功のための最も現実的な選択は「再調査」に関する技術的な問題を議論するだけではなく、より大局的な見地から朝・日関係を展望しそれにしたがって行動することだ。

 朝鮮側は、政府間実務会談を国交正常化の実現のための協議の一環として見ており、その枠内で「再調査」など一連の問題を議論している。福田政権が個別の懸案にこだわる狭小な考え方から脱して、平壌宣言にもとづく外交を復活させれば、朝鮮側の積極的な呼応を受けることができるだろう。

[朝鮮新報 2008.8.20]