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靖国無断合祀問題を考える 削除要求に応じない日本と靖国神社

「死してなお屈辱」

 小泉純一郎衆院議員が政界引退を表明した。彼は首相時代、アジア諸国からのたび重なる批判、怒り、中止要請にもかかわらず靖国神社参拝を繰り返した。首相の参拝行動によって、皮肉にも靖国神社の国際的な認知度は高まったが、同時に歴史認識、政教分離、A級戦犯合祀などさまざまな問題が噴出した。なかでも、朝鮮人などの無断合祀は人権に関わる重大な問題として、内外から強い批判を受けている。靖国神社は戦後、宗教法人となったが、数十回にわたる合祀に日本政府が深く関わっていることが判明している。日本政府は、遺族の声に耳を傾け主動的に解決を図るべきだ。

一日も早く解決を

 靖国神社合祀問題には、日本政府が深く関わってきた。戦前は陸海軍省での選定手続きを経て行われ、戦後は旧厚生省からの通知に基づき行われた。

 日本の国立国会図書館は昨年、靖国神社に関する非公開資料などをまとめた1200nにおよぶ「新編靖国神社問題資料集」を国会に提出。それにより、A級戦犯の合祀が旧陸海軍の流れをひく旧厚生省援護局と靖国神社の協議によって進められていたことが明らかになった。政教分離の原則に明らかに違反している。

 生存者を合祀した例もあった。本人は霊璽簿(名簿)などからの削除を求めたが、神社側は「合祀も信教の自由として認められている」と拒否している。

 こうした、不名誉な靖国合祀に反対し取り下げを求める声が広がっている。01年には「在韓軍人軍属裁判」が起こされた。117人が合祀取り下げ請求をし、現在控訴審が行われている(地裁では棄却)。昨年にも、遺族10人と本人1人が日本国と靖国神社に対し合祀取り下げなどを求めて提訴した。

 南朝鮮の国会は05年、靖国神社の朝鮮人合祀取下げなどを求める決議案を賛成多数で採択した。

 日本国内からもA級戦犯の合祀に疑問の声が挙がっており、沖縄在住の遺族らが合祀取り下げを求め提訴している。

 1942年に強制連行された父が靖国神社に合祀されている南朝鮮のある女性(77)は、「戦争に動員された父は故郷にも戻れず今も靖国に閉じ込められている。合祀を取り消すよう神社に行ったが門前払いされた。一日も早く父を解放し故郷の山河を見せてあげたい」と語る。

 彼女の母親は二人の娘を女手一つで育て、苦労しながらも強く生きた。97歳で亡くなるまで夫の行方を知ることはなかった。一緒に動員された人から夫の死を伝えられたが、日本政府からの正式な通知はなかった。娘は「靖国に名前があるとわかったが、母がかわいそうで伝えられなかった」。

侵略戦争を「顕彰」

 靖国神社は「国家のために一命を捧げられた方々を慰霊顕彰する」との名目で、「身分・勲功・男女の区別なく、祖国に殉じられた尊い神霊(靖国の大神)として一律平等に」祀っていることを誇っている。

 だが、これまで多々指摘されてきたようにその存在は、「国家神道の象徴」として、天皇を神格化し「天皇を中心とする神の国」としての国家体制形成を支えた。

 そして、「国と天皇のため」に戦い「靖国の英霊」となることを賞賛することによって、日清戦争から太平洋戦争にいたる侵略戦争に日本の国民を駆り出すのに大きな役割を果たした。

 戦後は「顕彰」に重点が置かれ、敷地内に「遊就館」が設置されるなど、戦争を正当化してきた。まさに「軍国主義の象徴、侵略と戦争の代名詞」となっている(朝鮮中央通信8月14日付)。

 いうまでもなく、靖国神社に祀られている「神霊」のほとんどは、日本の侵略戦争に駆り出されて犠牲となった人々だ。なかには日本軍軍人軍属として徴用され犠牲となった朝鮮人約2万2000人が含まれている。強制連行され、無念の思いで亡くなった人たちが「死してなお屈辱的な仕打ちを受けている」。しかも、創氏改名されたままだ。

靖国神社と日本政治

 各国は靖国問題に強い警戒心を抱いている。靖国神社が日本の政治と密接につながっているからだ。麻生新内閣に対する右傾化懸念の要因の一つもここにある。

 麻生太郎首相はいわゆる「靖国派」の中心的人物だ。過去に、「遊就館は戦争を美化するという感じではなく、その当時をありのままに伝えているだけだ」(05年11月)、「(靖国神社に)祀られている英霊は、天皇陛下万歳といった。天皇陛下の参拝が一番だ」(06年1月)などと発言している。

 また、「靖国擁護」「皇室敬慕」「憲法改正」など国粋主義的な主張をかかげ、首相の靖国神社公式参拝の定着を求める「日本会議」の国会議員懇談会で特別顧問(元会長)を務めている。同会には国会議員200人以上が名を連ねており、安倍晋三元首相は役員、福田康夫前首相は会員、麻生新内閣には6人の役員と4人の会員がいるという。

 それゆえ靖国神社批判は政策批判に通じる。執権者たちが合祀取り消しやA級戦犯の分祀、首相の参拝中止などの求めを聞き入れず「靖国擁護」に固執するのは、自身の政治理念が否定されかねないからだ。

 ただ、だからこそ軍国主義の流れを絶ち切るための要衝とも見なされている。訴訟を起こした遺族らは「誤りは後世が正さなければならない」と指摘している。(取材班)

[朝鮮新報 2008.10.15]