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〈みんなの健康Q&A〉 長引く咳−原因と疾患

 Q:今回は、ほかにたいした症状もないのに長引く咳についてお話をうかがいます。

 A:医学用語では咳嗽といいますが、これは気道内の分泌物である喀痰や異物・病原体を喀出するための生体防御反応であり、一種の自己治療行為といえます。しかし、四六時中ゴホンゴホンとしたり、呼吸困難におちいるぐらいひどい場合には学業・仕事の能率がとても悪くなります。とくに夜間にひどくなると睡眠がさまたげられ、日常生活に大きな支障をきたします。

 Q:煙草も吸わない、高熱や咽頭痛などの風邪症状もない、息がぜーぜーすることもない、胸部レントゲン写真でも異常がない、なのに咳嗽だけがいつまでも長引くということはあるのですか。

 A:決してめずらしいことではありません。臨床医学的には8週間以上持続する咳嗽を慢性咳嗽と定義しますが、とてもそこまでは待てないというのが実情だと思います。そこで、実質的には3週間以上続いていればちょっと変だなと考え、日常診療の現場では精密検査や治療を考慮します。

 Q:具体的にその原因にはどのようなものがありますか。

 A:気管支喘息、肺気腫をはじめとする慢性閉塞性肺疾患および肺癌などがよく知られていますが、一見してこれといった原因疾患が特定できない症例について最近研究が進んでいます。まず、薬剤の副作用で咳が生じることがあると知っておいてください。だから、ふだん常用している薬やそれに類したものがあれば、必ず医師に伝えてください。

 Q:風邪がほぼ治ったあとも、咳だけがそのままだらだら続くことがあると聞きました。

 A:上気道感染によるくしゃみ・鼻水やのどの痛みはよくなったのに、その後も咳嗽がいつまでも続くということがあります。この場合は自然に治まることが多いのですが、膿性痰を認め副鼻腔症状たとえば鼻漏、しつこい鼻づまり、嗅覚障害などを伴う場合は副鼻腔気管支症候群かもしれないので、専門医師による診察が必要です。

 Q:喀痰はほとんど出ないのに咳だけは止まらない場合も多いようですが。

 A:随伴症状だけで明瞭に区別がつくわけではありませんが、喀痰を伴わないいわゆる乾性咳嗽を呈する代表的なものに咳喘息とアトピー咳嗽というのがあります。

 咳喘息は一種の気道炎症すなわち気管支炎が生じ、気道過敏性が軽度ながら亢進し、気道が収縮することにより咳嗽が誘発されるという病気です。ゼーゼーした呼吸音や呼吸困難を伴わず、呼吸機能も正常です。基本的治療は気管支喘息と同じで、気管支拡張薬が有効ですが、効果不充分な場合には吸入ステロイド薬も使用されます。多くの場合は1カ月程度の治療で治癒しますが、適切な治療を行わないと一部が本当の喘息に移行するとの報告があるので、見逃すとやっかいなことになります。

 Q:アトピー咳嗽というのはどういったものですか。

 A:これは咳喘息と類似したアレルギー性疾患ですが、いくつかの点で異なっています。まず、咳受容体の感受性は亢進しているのですが、気道過敏性は正常です。また、多くの患者にアトピー素因を認めますが、気管支喘息に移行することはありません。例えば、いつも同じ時期に咳が出る、ほかにアトピー性皮膚炎や花粉症がある場合には、アトピー咳嗽である可能性が高くなります。気管支拡張薬は効かず、抗ヒスタミン作用を有する薬剤で俗にアレルギー薬と呼ばれるものが第一選択となります。吸入ステロイド薬が併用されることも少なくありません。

 Q:それぞれ微妙に病態が違うので、ある程度診断がわかったうえで治療法を考えなければならないというわけですね。

 A:基本的検査であるレントゲンや喀痰・血液検査は一般病院でも可能ですが、とくに気道過敏性検査となると専門医療機関でないとできません。そこで、簡易的な方法として、十分に問診・診察をしたうえであたりをつけて、薬物治療を開始することがあります。そうして、たとえば気管支拡張薬が有効であったならば、この患者は咳喘息であったと判断できるわけです。すなわち診断的治療というわけですが、この場合には少なくとも1週間以内に再診をしていただきまめに経過をみることが要求されます。

 Q:これらのほかにも長引く咳をもたらす病気はありますか。

 A:後鼻漏といって鼻汁が慢性的に喉を刺激する状況や喉頭アレルギーといった気道の障害に起因するものが多いのですが、変わったものでは胃食道逆流症というのがあります。これはすっぱい胃液が食道に逆流することで刺激になり、がんこな咳嗽を引き起こすというものです。この場合には鎮咳薬ではなく、胃酸をおさえる特別な胃薬が効きます。

 Q:咳が1カ月も2カ月も続くときには、あらためて医師の診察を受けなさいということですね。

 A:自己判断で咳止め薬を安易に長期間服用することは、むしろ害になることもありますので、厳に慎みましょう。(金秀樹院長、医協東日本本部会長、あさひ病院内科、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800)

[朝鮮新報 2008.1.23]