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〈本の紹介〉 ディアスポラとしてのコリアン

在日の生き方に相対的な視座

 「政治上の理由などから、本国を離れて暮らす人々のコミュニティー」(ウィキペディア)を意味するディアスポラという言葉が最近、在外コリアンコミュニティに対してもよく使われるようになってきた。今、どこの国に居住しているかという現状だけではなく、そこに住むことになった歴史的経緯や理由に関心を向けさせようとする意図が働いた表現と思われるが、本書を読めば在米や在中、在中央アジアの同胞たちがなぜそこに住むようになったのかがよくわかる。

 本書の執筆者の多くは米国の若手同胞研究者だが、中にはウズベキスタンや日本の研究者らも執筆しており、その内容も非常にバラエティに富んでいる。また本書は在米、在中、在日の論文も複数、収録されているがとくに中央アジアの同胞に関して最も多くのページが割かれている。その中でも1937年の極東地域から中央アジアへの強制移住について、強制移住はその時になって急に行われたものでも、また朝鮮民族だけに行われたものではなかったことについてのゲルマン・N・キム(カザフ国立大学教授)の論考や、カザフスタンに住むコリアンの民族団体がソ連崩壊後、「エスニックマイノリティとしての生き残り」を図りどのような戦略を持ち、活動しているのかについての岡奈津子(日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員)の論考などは非常に興味深い内容である。

 また中央アジア以外の同胞に関するものの中では、中国への朝鮮人移住について、経済的理由よりも日本の植民地支配への抵抗というところに着目して分析したエドワード・テハン・チャン(カリフォルニア州立大学リバーサイド校教授)の論文や中国朝鮮族のアイデンティティの変遷について考察した複数の論文、在日同胞の中で日本国籍を有する人たちのコリアン・アイデンティティの主張に着目し、これを分析した本書全体の訳者でもある柏崎千佳子(慶応義塾大学准教授)の論文がおもしろい。

 このように本書では各国の同胞たちが異国の地でどう扱われてきたかということよりも、どのように考え、どう生きてきたかということに関する論考が多く、在日同胞のあり方を他国の同胞と対比しながら相対的にみる視座を与えてくれるという意味でも多くの同胞に一読を勧めたい。

 ただ欲を言えば、各国の同胞コミュニティについての論考のテーマにバラツキがあり、それぞれのコミュニティを何らかのテーマや角度を切り口に比較して論じるというものがないのは少し残念な気がした。また収録された論文は7、8年ほど前のものであり、在中同胞にしても在中央アジア同胞にしてもここ数年の間にさらに相当な状況変化があるように思えるだけに今後の研究成果の発表を筆者の方々に期待したい。(高全恵星監修、柏崎千佳子訳、新幹社、4500円+税)(金東鶴 在日本朝鮮人人権協会事務局長)

[朝鮮新報 2008.2.2]