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〈本の紹介〉 韓国現代詩の魅惑

重厚で精緻、卓抜な詩論集

 これはすでに筆者がほかのところで書いたことがあり、また本書もふれているのだが、南朝鮮ではしばしば詩集がベストセラーになり、なかには百万部を売りつくすほどのものまであるという事実を、本書を手にした読者は念頭に入れてほしい。

 この本は題名が「〜魅惑」とあるために、単に現代南朝鮮詩の味読の仕方、あるいはよい意味での通俗的な解説書という印象をうけるかもしれないが、そうではない。重厚で精緻な学術的な研究書の品格を備えた卓抜の詩論集・詩史であり、そのうえで、詩の民族的特質から紡ぎだされる真の魅惑が叙述されている。枚挙に遑のないほどの、植民地時代から今世紀にかけての詩人たちのうち、誰をどのような規準で選ぶかということは、評者の識見と詩的センスによって決まるものである。著者が選んだ詩人を見ると、その造詣の深さからみても、また客観的な視点からしても、正鵠を射た精選だといえる。私自身はリアリズムの信奉者であり参与詩に与みするのだが、本書は、大別して純粋派と参与派をもって詩の潮流を俯瞰するかのように、両派の詩人を均衡的に選んでいる。そのことは、右の本書の構成を見ればよくわかる。

 第1部「植民地時代の詩人」(李相和、金素月、韓龍雲、李燦、朴世永、林和、白石、金東煥、鄭芝溶、朴斗鎮、尹東柱、李陸史)。第2部「解放後の詩人」(申東曄、金洙暎、高銀、鄭玄宗、都鐘煥)。第3部「激変期の詩」(70〜80年代=申庚林、金芝河、姜恩喬、李時英、朴ノヘ、90年代=高炯烈、安度、崔泳美、ユ・ハ、2000年代=金思寅、キム・ミンジョン、咸繁復)。

 収録されている詩人名を全て列挙したのは、各時代の代表的詩人を選びぬいた、客観性を無視しない著者の選定眼の確かさを知り、同時に本書が、すぐれた詩史であることを明らかにしたかったからである。ただ筆者としては、一冊の本としては望蜀になるだろうが、文炳蘭、趙泰一、金凖泰、崔夏林、李盛夫、鄭喜成、宋基元、金南柱、金龍沢、河鍾五たちにもページを割いてほしかった。だがこのことは、著者に次の研究を期待したい。

 詩を批評し理解するには、まず所与の詩がつくられた時代の思潮と詩人の思想と生活の場を分析することが求められる。ついで、評者が、詩的構成を犀利に腑分けすることによって喚起される詩的感覚で、詩的表現のディテールにまで迫りそこから醸成される感懐を自分の言葉で客観化するという創造的営為を必要とする。著者の批評はこうした要求性をみたしているということができる。

 著者は2000年代の南朝鮮現代詩のために、@歴史的な現場を描くような叙情精神の回復A超越の創造力の回復B詩的実験が続くこと、という3点を提言している。筆者としては、分断時代が克服されていない現実を凝視して、70〜80年代の参与詩の伝統が、民族的課題に応えて発展的に継承されることの重要性を強調しておきたい。(金應教著、新幹社、3500円+税、TEL 03・5689・4070)(辛英尚 文芸評論家)

[朝鮮新報 2008.2.2]