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〈朝鮮と日本の詩人-48-〉 浜口国雄

花に託す朝鮮民族への敬愛

 花びらの芯から呻きがきこえてくる。/血を流しているむくげの花よ。/花を愛したことで人は殺害された。/花を植えたことで人は投獄された。/引裂かれたむくげの花。/朝鮮よ。

 花。/むくげの花よ。/受難の年月 愛を深めて咲いた花。/笞に耐え胸の深部で白い花びら開いた花。/胸から胸へ咲きつがれ咲いた花。/朝鮮よ。

 うばわれ焼きはらわれたむくげの花。/傷つけ踏みつけられたむくげの花。/哀号の声に涙かみしめ咲いたむくげの花。/白い花びらむくげの花。/清純な朝鮮の国花 むくげの花よ。

 むくげの花。/朝鮮。/むくげの花を愛することが、祖国への愛の表現だった。/むくげの花をささげることが、男女の愛の証だった。/むくげの花を咲かすことが反抗だった。/むくげの花を送ることが反抗の連帯だった。/むくげの花を受けとることが連帯の証だった。/むくげの苗を育てることが、たたかう朝鮮人の義務だった朝鮮。

 むくげの花。/受難の年月血をながし咲きつづけた花。/呻いていた朝鮮。/たたかう愛を統一したむくげの花。/花の芯で人々をはげまし、香りをはなっていた朝鮮。/白い清純なむくげの花よ。/朝鮮よ。

 右の「むくげの花」(全文)には、各連の冒頭に「笞刑執行心得」が付されている。1912年に「朝鮮総督府訓令第41号」として制定されたもので、囚人に笞刑を加える時の注意事項である。無窮花は朝鮮を象徴する花とされていた。朝咲いては夜しぼみまた朝に咲くという花の性質から、植民地下にあっては不屈の抵抗精神をあらわす花として愛でられてきた。詩人はそれを知っていて、独立闘争をやめなかった朝鮮民族への尊敬と、宗主国であった日本の一詩人としての讀罪の念をモチーフとしてこの詩を書いた。「むくげの花・苗」を詩語として19回くり返すことによって、朝鮮民族の気概を暗示している技巧にも注目したい。浜口国雄は鉄道労働者であり、働く者の立場の詩を書く詩人として知られている。代表作「便所掃除」は、映画「寅さん」でとり上げられて広く知られた。福井県の生まれで、3歳から20歳まで清津で暮らしていて現地召集され、一兵卒となり捕虜となった。帰国後に旧国鉄に勤務し、58年に第1詩集「最後の箱」で認められた。この詩は「浜口国雄詩集」(日本現代詩文庫〈8〉土曜美術社)に収められている。(卞宰洙・文芸評論家)

[朝鮮新報 2008.2.4]