top_rogo.gif (16396 bytes)

〈デイサービスセンター・エルファを訪ねて〉 温かい握手 一生忘れない

エルファには日本の学生たちがよく訪れてくる

 龍谷大学短期大学部の村上ゼミと加藤ゼミは、昨年、京都コリアン生活センターを訪問し、在日同胞高齢者の生活支援などについて学習した。また、ゼミの代表4人が、デイサービスセンター・エルファを訪問し、高齢者2人に直接インタビューした。以下はそのときの学生のまとめである。同ゼミの加藤博史教授はこの活動を通して「あらためて、文字通りの『対話』『心のキャッチボール』が理解しあう基本だと感じた。学生の心のなかで何かがしっかりと発酵している」と語っている。

 デイサービスセンターに通うTさんのインタビューをさせていただいた。Tさんを初めて見た印象は、温かで優しいおばあちゃんという感じだった。

 Tさんに、今まで生きた中で、一番うれしかったこと、楽しかったことを聞いた。Tさんは、今お孫さんが14人もいて、生まれてきてくれたことがとてもうれしいそうだ。一緒にお話ししたり、遊んだりすることがとても楽しく、エルファに通うことも、もう一つの楽しみだそうだ。このことを話している時のTさんは、優しい笑顔で毎日幸せなのが伝わってきた。

 けれど今まで生きてきた中で、一番悲しかったこと、辛かったことを聞くと、Tさんは本当に辛そうに、そして少し涙目になりながら話してくださった。Tさんの家族は、Tさんが2歳の時に徴用され、日本に連れてこられた。父親は、いろいろな仕事場に振り回され、あちこち転々とさせられたそうだ。そして、ご両親は、Tさんに字の読み書きをさせてあげたいと思い、9歳の時に小学校へ入学したそうだ。そこからのTさんの学校生活は、聞いているだけで胸がとても苦しくなった。Tさんは「朝鮮人」ということだけで、毎日いじめに遭われたそうだ。

ヘルパーと過ごす楽しいひととき

 お弁当にキムチが入っていて、それを周りの子どもたちが「くさい、くさい!!」と言って捨ててしまったらしい。そして、キムチがなかったらなかったで「おかずがないからかわいそうだな」と騒がれ、ご飯の上に砂をかけられたり、無理矢理雑草を食べさせられたりしたそうだ。また、ホルモンが食べ物として見られていなかった当時、Tさんがホルモンを食べていると、「虫の幼虫を食べている!」と、バカにされたそうだ。

 これらのいじめや差別は、小学生の間だけではなく、働き始めてからもあったらしい。Tさんは、14歳の時から朝6時から夕方6時まで毎日働いたそうだ。誰よりも朝早くに来て、掃除などの下準備をしたりしていたのに、給料は日本人より少なく、文句を言ったら「それならやめろ」と言われたそうだ。ご飯の量も日本人はお茶碗に白いお米がたくさん盛ってあるのに、Tさんには小さいお茶碗に少ししか入れてくれなかったらしい。

 そしてTさんは結婚し、子どもができたのだが、その子どもでさえもいじめに遭い、Tさんが学校に迎えに行くと、校庭の端っこの方で泣いていたらしい。

 けれど、時が経つにつれて周りの人々も理解をしてきて、今では近所の方々とキムチを交換したり、家を行き来したりして、とても楽しい日々を送っているそうだ。そんな中、テレビで日本人がおいしそうにキムチやホルモンを食べていたり、いじめで自殺したニュースなどを聞くと、辛かった過去をどうしても思い出してしまい、悲しく、そして今のいじめがいつまでも続く現状が腹立たしいそうだ。

 私は今回話を聞かせていただいて、本当に良かったと思うし、同時にいろいろなことを考えた。一つはいじめについてである。なぜ「朝鮮人」というだけで、Tさんがあんなにひどいいじめに遭ったのかわからない。同じ人間なのに、なぜ在日の方だけがたくさんのことを我慢し、身を潜めないといけなかったのだろう。初めてこんなに詳しく在日の方に対する差別や、偏見について聞いた私は、朝鮮学校だけでなく、一般の学校でも学び、子どもたちにいじめの辛さと仲良く歩んでいくことの大切さを学んでほしいと思った。

 もう一つは、人が人に与える温かさと冷たさである。冷たさはいじめや差別から現れると思った。そして温かさは、人を大切に思う気持ちや行動、感謝の気持ちから現れると思った。Tさんが今、笑顔で過ごしているのは、近所の方がTさんと交流を持ったり、お孫さんたちがTさんを思い、手を差しのべたり、散歩に行こうと声かけをしているからだと思う。そして、なによりTさん自身が多くの人を愛し、優しく接し、辛い学校生活だったけれど、読み書きや人と話せることができるきっかけを与えてくれたご両親への、大きな感謝の気持ちがあったからだと思った。

 私は、こんなTさんに出会えて本当によかったと思う。Tさんの体は、昔働きすぎて腕が肩より上には上がらず、今も痛みが残り、全身湿布を貼った状態だった。そして、たくさんのいじめに遭い、辛い思いをして、人間の冷たさを知ったにもかかわらず、握手をした時のTさんの手はとても温かかった。私はこの温かさを一生忘れないだろう。(森本百合子=仮名)

[朝鮮新報 2008.2.6]